鷲尾翼

笑いのカイブツの鷲尾翼のレビュー・感想・評価

笑いのカイブツ(2023年製作の映画)
4.0
【まとめシネマ】#1079

【まとめ】
* 岡山天音の狂気の怪演
* 笑いの過剰摂取と副作用
* ツチヤタカユキという伝説

ツチヤタカユキとは
NHKの大喜利番組『ケータイ大喜利』や『オードリーのオールナイトニッポン』などの常連投稿者として活躍していたラジオ職人。本作は2017年に出版した彼自身の半生を綴った同名私小説を映画化した作品。ちなみに、僕は「ツチヤタカユキ」という名前はオールナイトニッポンのサブスクサービス『ANN JAM』で過去の『オードリーANN』を聴いている中で、活躍を知った。

本作で主人公のツチヤタカユキを演じるのは、岡山天音。「人間関係不得意」という本作を象徴する言葉のように、その不器用な生き様と不器用な喜びを見事に演じている。社会性も、社交性も知らず、笑いのみで生きるその人間性は、時に周りに攻撃してしまうほど狂気的な孤独となり、それを演じる彼も恐ろしい。

本作で主人公が追い求める「笑い」は、危険なドラッグのように描いている。自分のセンスを評価される快感は、やがて周りの意見を受け付けない孤高のこだわりとなる。その笑いの過剰摂取による副作用も想像以上で、見るもの聞くもの、その全てが「大喜利」になってしまう演出は、妙な共感を感じる。それでも理想の笑いを求めて、心身はボロボロになり、金も心も空になる。それでも笑いを欲してしまう。

これは作品の評価とは別だが、本作を見て思うのが『だが、情熱はある』(以後、情熱)だ。オードリーの若林・春日という実在の人物を演じた『情熱』に対して、本作はオードリーを思わせる架空の人物が登場する。正直「オードリー愛」を問われると『情熱』の方が感じる。しかし、本作はあくまでも一人のラジオ職人の物語なので、マイナスには思わない。あと、春日役は本作で演じた板橋駿谷が、声も体格も、春日だった。

本作を見て「お笑い」というものを考えてしまう。

笑いは感性であり、音楽やアートなどの芸術よりも、才能を問われるものだと思う。芸人の感性と、観客の感性が合致しない限り爆笑は生まれない。その中でもハガキ職人という笑いの才能は、多くの作家の感性を通り抜けて、憧れのラジオパーソナリティーの元に届き、感性が共鳴する。本当に素晴らしく稀有な才能だ。だからこそ、それを生み出し続けたツチヤタカユキという伝説の存在は、多くのラジオ職人の憧れであり、脅威だろう。
鷲尾翼

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