せいか

女神の継承のせいかのネタバレレビュー・内容・結末

女神の継承(2021年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

05/19、Amazonビデオにてサブスク視聴。字幕版。
日本公開前から気になっていた作品。タイの祈祷師を題材にホラーをするというのでどうやるのかなあと楽しみにしていたけれど、蓋を開けたら中盤からさらにエンジンフルスロットルにしていくバッドエンドもいいとこのモキュメンタリーホラー作品であった。安易に題材を因習扱いしたり、後進的なものとして捉えるということは一切していなかったのでよかった。

あらすじ:タイで一家相伝の女神を受け継いで巫女業(と副業の服飾関係の請負業)をしている中年女性のドキュメンタリーを撮影するという体で物語は始まる。途中、姪が何やら巫女候補として選ばれた者に訪れる体調不良を発症するようになり、これは継承の様子も撮影できるのでは?とにわかに活気づくも、どんどん事態は混迷化し、姪に取り憑いているのは女神ではなく、恐ろしく強力な悪霊だということが判明する。日を積むごとに姪の様子はどうしようもなくおかしくなっていき、大規模な儀式の準備を整えるも、その関係者たちをも巻き込んで全員が等しく惨たらしい破滅へと導かれていくのだった。

原題のタイ語および英題は「霊媒」を意味する言葉が使われている。本作はタイと韓国の合作なので触れておくと、韓国語タイトルもシャーマンを意味する語彙であるようだ。

本作はとにかく血の呪いと言えるものが果てしなく木の根のように広がり、作品全体に食い込んでいる内容となっている。先祖神バヤンとそれを継承していかざるを得ない母系の子孫たちがまずメインに居るのだけれども、別の血筋のほうもそちらもそちらで先祖が大量虐殺をした呪い故に子孫に並々ならない不幸の連鎖が続いていたりもする。どうしようもない血筋のどうしようもない煮詰まりが子孫のもとで結実した様子を丁寧に描いている作品だった。その血の広がりがある種のウイルスのようになってわだかまり、蔓延し、えげつない破滅を招いている息苦しさ。
あらゆるものに精霊が宿るとするアニミズムと祖霊の魂を敬う世界観のもとで紛うことなく超自然的な事態が発生しながらもどうしようもなく問うことになる信仰対象の存在証明だとか、そこに関する絶望感のすくい取り方がすごく良く表現されていた。血の呪いを辿ってどんどんいろいろなものが吸収された上でアニミズムの精霊たちが復讐鬼となって一人の女性をシャーマンにして顕現するという、この世界のどうしようもなさを形にしたようなドス黒さといい(というか、この姪こそまさに血筋に縛られた最終形態として本当のバヤンの巫女となったようなものなのだろうけれど)、平穏に社会の中で生きてきた女性がどんどんその存在によって逸脱させられていく様子といい、そもそも彼女の中の歪が実際にはどこから発生していたのか(言明されてないだけで、ビッチな行為とかは物語開始以前から既にする奇癖がありそうだったこととか……)、媒介者となっている彼女は実際どうであるのかとかいう余韻の不気味さといい、ほんとに救いがない。
バヤンの巫女である女性が、死ぬ前に、実は自分はバヤンの存在を感じられていなかったと告白するところとか(その前に姉に神の不在を問われて揺らぎ、心のガードが崩れてしまった流れでもあるのだけれど)。彼女もそもそも服飾の道に進む道を摘まれてこの血の呪いに表向きは満足そうに従事していたりという始まりがあって、本作の惨劇と関係なくもうすでにつらいものがあったり。存在するかわからないものにただすがっていくしかないどうしようもない足掻きと虚無。こういう信仰面に関しては本作は全然宗教は違うけれど、ベルイマンの神の不在を扱った一連の映画を彷彿とさせるところがあって面白かったというか、私としてはそこが本作のミソな部分だとも思っている。この巫女の姉が血筋から逃れるためにキリスト教徒になっていたというのもそういう意味で面白い。神はどこにいるのか、われわれに何を為すのか。
本作では巫女が直接の信仰対象としているのが祖霊神であるだけに尚一層その不在さと抑圧の強さがよく現れている設定になっている。祖霊信仰って、暗い目で捉えれば、まさに家と土地に子孫を縛り付けて成り立つものでしかないし。

巫女がたぶん表向きは見せなくても何らかの執着は残していたのだろう服飾というものも、怨霊たちの巣のようなことになっていた廃工場も服飾に関するものでそこと何となく繋がっていたり、無意識に近いような、無関係とも言えるような糸が繋がって淀んで膨らんで結局一つの形となっている感じとか、繰り返してしまうけど、救いのなさの描き方がとことんじめじめしていて上手かった。
どうしたってどうしようもないんだよなあ。巫女の継承もそう簡単に辞められるものではないだろうけど、仮にそれを辞めてそこを断ち切れたとしても、血の継承は子孫がいる限り何らかの形で引き継がれていくものなのだ。本作ほど明らかに地獄めいていなくても、一般レベルでも遺伝とか遺物とか何かしらを引き継ぎながら人は生まれていくものなので。全く何もかもまっさらになんてできるわけがなくて、何かが継がれ蓄積されていく呪いにみな等しくかかっている。その内容に差はあれども。そういう話でもあるよなあと思いながら苦虫噛み潰しまくり視聴していた次第である。
だから、本作、そのどうしようもない鬱屈に対して爆発して全部めちゃくちゃにしてやったぜ!って話だと思うというか。家も(姪を残してはいるけど)取り潰し状態にしてやったし、その軛から解き放たれて次は外にも破滅を蔓延させていくぜ的な余韻すらあるので、取り敢えずタイ逃げて!って感じ。このままでは現在の呪縛するものは全部翻って呪いそのものとなって灰燼に帰させていくことになるのでは……。何やら続編を作るつもりでもあるらしいのでなおさらである。何もなければ何も起きないからな。
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