ぶみ

イノセンツのぶみのレビュー・感想・評価

イノセンツ(2021年製作の映画)
3.5
大人には、秘密。

エスキル・フォクト監督、脚本、ラーケル・レノーラ・フレットゥム、アルヴァ・プリンスモ・ラームスタ、ミナ・ヤスミン・ブレムセット・アシェイム、サム・アシュラフ等の共演によるノルウェー、デンマーク、フィンランド、スウェーデン製作によるスリラー。
自閉症で口のきけない姉とともに郊外の団地に引っ越してきた姉妹が、不思議な能力を持つ少年少女と出会う夏休みを描く。
大友克洋の漫画『童夢』からインスピレーションを得たとされるが、同漫画は未読。
主人公となる9歳の少女イーダをフレットゥム、自閉症の姉アナをラームスタ、団地に暮らす少女アイシャをアシェイム、少年ベンをアシュラフが演じているほか、姉妹の父母役としてモーテン・シュバラ、エレン・ドリト・ピーターセンが登場。
物語は、郊外にある緑豊かな森に囲まれた団地を舞台として、夏休みを過ごすイーダ、アナ、アイシャ、ベンの姿を中心に展開するが、夏でありながら、日本のようなピーカン天気ではなく、常にどこか曇りがかったような映像と、人里離れたところにあり、一つの村かのような団地の閉鎖的な雰囲気は、まさに北欧スリラーの真骨頂と言えるものであり、爽やかさの欠片は一つもなく、常に不穏な空気感が漂っている。
そんな中、アイシャは喋ることができないアナと意思疎通ができ、ベンは手で触れることなく物体を動かせるという特殊能力を持っているのだが、それがこれ見よがしの描写ではなく、四人の中で自然に溶け込んでいき、かつ、徐々にエスカレートしていく様が丁寧に描かれているため、観る側もいつの間にやら、その世界観に没入していくことに。
そして、そこに描かれるのは、タイトルでもある子ども故の無邪気さ、純真さからくる残酷性や狂気であるとともに、それは大人の知らない子どもだけで成立している世界であることから、表現方法は違えど、多かれ少なかれ、誰しもが幼少の頃に身を置いたことのあるシチュエーションではなかろうか。
そんな、それぞれが持つ無垢なる残酷性を、『イノセント』ではなく『イノセンツ』と複数形で示したタイトルも秀逸であり、また、一瞬何が映し出されているのかわからないイメージビジュアルも、本作品の世界観を端的に示している。
派手さはない反面、ジワジワと観る者の心に迫ってくる狂気の世界が、本人たちにそこまでの感覚はないものの、大人から見ると恐怖以外の何物でもない様を、団地を舞台に説明的な台詞を極力廃して描き出しているとともに、子どもたちの刺激的な夏休みを体感できるジュブナイルものとしても楽しめる怪作。

心で泣いてるの。
ぶみ

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