タケオ

イノセンツのタケオのレビュー・感想・評価

イノセンツ(2021年製作の映画)
3.8
-どこまでも'映画的'に描かれる、無垢で残酷な「子供の世界」『イノセンツ』(21年)-

 冒頭、車の中で主人公イーダ(ラーケル・レノーラ・フレットゥム)がおもむろに自閉症の姉アナ(アルヴァ・ブリンスモ・ラームスタ)の皮膚をつねりだす。アナは上手く言葉を発することができないため、両親はイーダの悪事に気付かない。子供の無垢と残酷───映画のテーマが鮮やかに提示される。
 本作『イノセンツ』(21年)では、全ての出来事が登場する4人の子供たちの主観で描かれる。外の「社会」については一切語られない。子供たちにとっては舞台となる郊外の団地こそが「世界」の全てだからだ。子供たちは突如として超能力に目覚めるが、その能力すらも主観でしか描かれていないため、実は全てが子供たちのイマジネーションの内の出来事でしかない可能性も残される。最後まで真偽はわからない。その一方で、孤独と疎外感に苛まれる子供たちの日常の描写は驚くほどリアルだ。地に足の着いた「リアリティ」と子供たちの「イマジネーション」の綱引きこそが、本作にヒリつくようなスリルと恐怖をもたらしている。それにしても、主演の子供たちの自然な演技には驚かされるばかりだ。いわゆる「子役らしい演技」というものが一切見受けられない。4人から自然な演技を引き出したエスキル・フォクト監督の手腕にも舌を巻く。
 クライマックスでの超能力バトルは、展開から画作りまでなにもかもが大友克洋の『童夢』(80~81年)の丸パクリで少々困惑させられたが、目に見えない力のぶつかり合いを水や風を用いて視覚的に表現していく'映画的な演出'の連続には惚れ惚れとさせられた。我々が大人になるのと引き換えに失った、豊かなイマジネーションに満ちた無垢で残酷な「子供の世界」を、本作はどこまでも'映画的'なやり方で垣間見せてくれるのである。
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