これは癖になる“格闘しながら”鑑賞する作品です。
描かれている世界はものすごく深い。
全部が理解できたかといえば、たぶんそうではない。
この作品は物静かで力強く恐ろしい。
人間の本質にまとわりついているものをすべてはぎ取ってしまったような映画だ。
余命幾場もない次女のために、
長女と三女が大邸宅に戻ってきている。
普段の看病は召使のアンナが世話をしている。
長女も三女も男性関係に影を持っており、それゆえに関係も疎遠になっている。
次女の容態がいよいよ悪化し、
死を迎えることになったことをきっかけに、
長女と三女の感情が爆発し・・・
全体の場面が、真紅を中心に描かれていて、
場面転換の溶暗溶明のワイプが黒でなく赤で統一される。
女性の深層心理は血の赤なのだという暗喩なのだろう。
そんな赤い豪邸の中を、
豪華な白いドレスで暮らす女性たちがとても美しく描かれる。
反面、夫に愛情を感じることができない長女が、
ワイングラスのかけらを局部に突き刺し、
流れる血を口に塗りながら夫を見つめるという凄絶な場面もある。
過去に関係を持った医師と再会した三女は、
医師から冷たく老いについて問い詰められる。
病床に伏せている次女はマザーコンプレックス的なところがあり、
母親の愛情を召使のマリアに求める。
マリアはその愛に必死に答えようとする。
目の前に死が迫った人間にとって、
牧師の言葉は俗な言葉にしか聞こえないのも皮肉である。
ベルイマン監督作品らしく、
神と人間の関係についても描かれているのだが、
その描写は、他のベルイマン作品よりわかりやすい。
圧巻は、
死んだ次女と、長女、三女の魂の会話のシーン。
このシーンが、冒頭に書いた人間の業を描いたシーンとなる。
緊迫の場面が続いた後、
回想シーンでまだ仲が良かったころの三姉妹が、
召使のアンナと共にピクニックに出かけるシーンがある。
落葉の風景が美しく、
それまでの室内劇の重く苦しい雰囲気からの転換にハッとする。
ラストに、『叫びとささやき』という言葉が出てきて、それはすべて沈黙に帰するという哲学的な言葉で終わる。
いやぁ、まったくすごい作品だ。