タケオ

ホーンテッドマンションのタケオのレビュー・感想・評価

ホーンテッドマンション(2023年製作の映画)
1.4
-この夏、最もホロウな映画体験!『ホーンテッドマンション』(23年)-

 ディズニーパークの人気アトラクション『ホーンテッドマンション』の3度目の映像化作品である。当初はギレルモ・デル・トロが製作,監督,脚本を務める予定だったが、後に降板。代打として『ディア・ホワイト・ピープル』(14年)で名を上げた新鋭ジャスティン・シミエンが監督に就任し、残されたデル・トロの脚本も「ファミリー層には怖すぎる」と判断されたため、『SPY/スパイ』(15年)や『ゴーストバスターズ』(16年)などの作品で知られる脚本家ケイティ・ディポルドがリライトを担当することとなった。PG13のコメディ・ホラーを構想していたデル・トロの手を離れ、ディズニー・スタジオの考える「誰もが楽しめるファミリー映画」として製作されたのが本作である。
 まず何よりも、オーウェン・ウィルソン、ティファニー・ハディッシュ、ダニー・デヴィートといった新旧実力派コメディ俳優を多く起用しておきながらも、ギャグシーンがことごとくつまらないことに驚かされる。彼/彼女らの持ち味がまるで活かされていない。シミエンとディポルドはコメディを得意とする作家のはずだが、本作においては匙加減がうまくつかめなかったのか、全体的に空回りしている印象を受ける。また、壁が伸びる部屋や観客を見つめ続ける肖像画など、アトラクションでお馴染みの仕掛けもいくつか散見されるが、いずれもただの再現に留まるばかりで、映画そのものをまったく盛り上げてくれない。「ファミリー層」を意識したホラー演出の生ぬるさは言わずもがな、ドラマパートのテキトーさも目に余る。本作では主人公たちが幽霊屋敷での騒動を通してそれぞれ心の喪失を乗り越えていく姿が描かれるわけだが、感情の機敏は全て台詞で説明されるのみで、キャラクターたちの成長にまるで説得力がない。アクションとドラマが完全に分離しているため、感傷的なシーンになるたびに映画のテンションが途切れてしまうのもいただけない。アトラクションの映画化ではあるが、映画そのものをアトラクション化することには失敗していると言わざるを得ない。なぜ霊媒師は自信を取り戻せたのか?なぜ息子のいじめは解決したのか?そこに明確なロジックはない。ただなんとなく上手く収まったかのように描かれているだけだ。エモーションやカタルシスなどあったものではない。監督やキャストの魅力は活かされず、ギャグもスベりっぱなしで、ホラー演出は生ぬるく、ドラマパートも説得力なし。一体何を楽しめというのだろうか?
 ただただ巨大なだけの新鮮味のない幽霊屋敷の中、血の通っていないキャラクターたちがまるで印象に残らないCGのゴーストたちとともにわざとらしい笑顔を浮かべ、説得力のない空虚なメッセージを垂れ流す。マトモなビジョンもなければ情熱もない。全てがオタメボカシ。なるほど、これがディズニー・スタジオの考える「誰もが楽しめるファミリー映画」か。この夏、最もホロウ(虚ろ)な映画体験であった。
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