品川巻

もうひとりのトムの品川巻のレビュー・感想・評価

もうひとりのトム(2021年製作の映画)
3.3
卒論でADHDの当事者にインタビューをしていた経験があったので、ほぼテーマありきでこの作品を観ることにした。

メチルフェニデートの処方やADHDの診察の様子など、私でも馴染みのある描写が多かったし、エレベーターのボタンを全部押しちゃうとか授業中に席を立っちゃうとか、息子のADHD症状も分かりやすく表現されていた。

雪景色で母親が息子の耳を押さえて難聴を体験させながら「あなたのことも知りたい」って呟くシーンは凄くいい。
子役の演技やセリフも自然で、ドキュメンタリーを観ているみたいだった...

にもかかわらずそこまでのめり込めなかったのは、息子だけではなく「難聴の母自身にもADHD症状がありそう」なのに、そこにあまりフィーチャーされていなかったからかも。

落ち着きのなさを見ると息子は「多動性」のADHDで、母親の突拍子もない行動は「衝動性」のADHDっぽい。
息子との約束や時間を大切にしようとしている母自身にも実はADHDの特性があることを示唆する描写があった方が「何故こういうことができないんだろう」という正解が見えやすいし、何も知らない観客が「この母親は衝動的でイライラするな〜」という感想で終わらなかった気がする。周囲の環境は難しくても観客だけは母親に寄り添えるようなつくりにしても良かったんじゃないかな。

あと欲を言えば、息子のADHD当事者としての視点からの景色も見せてほしいな〜と母親と同じ気持ちになった。
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