KnightsofOdessa

The Tale of King Crab(英題)のKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

The Tale of King Crab(英題)(2021年製作の映画)
3.0
[タラバガニに導かれるままに…] 60点

田舎の酒場に集まった老人たちは100年近く前に当地で暮らしていたルチアーノという男の物語を語り始める。町医者の息子だったルチアーノはヒゲモジャの飲んだくれで、村の厄介者だった。しかし、老人らが語るところによれば、彼には狂人、貴族、聖人、酔っぱらい、悪党など様々な顔があったというのだ。ある日、村を治める貴族が羊を誘導するのに便利な近道を通行止めにし、ルチアーノがその門をぶち破ったことで問題が表面化していく。Andrea Cavalletto が衣装デザイナーを手掛けているということもあり、本作品の第一部"聖オルシオの悪行"は『マーティン・エデン』に似ている。監督コンビはドキュメンタリー出身らしく、『マーティン・エデン』のピエトロ・マルチェロも同じことを考えると不思議ではないのかもしれない。また、ルチアーノが恋い焦がれる村一番の美女エマを演じるマリア・アレクサンドラ・ルングから連想する『夏をゆく人々』、そして同じくアリーチェ・ロルヴァケルの『幸福なラザロ』の前半部分を連想させるような、眩しい陽光と豊かな自然情景、そして民俗学的知見はドキュメンタリー作家というバックボーンがあってこそのものだろう。

エマを失って村を追放されたルチアーノは、パタゴニアの孤島へと黄金探しの旅に出掛け、第二部"世界のろくでなし"が開始される。神父に化けた彼はタラバガニを歩かせ、その導きに従って黄金を探していたが、追ってきた海賊に捕らえられ、彼らと共に財宝を探すことになる。前半の牧歌的な雰囲気や民俗学的側面は鳴りを潜め、リサンドロ・アロンソ『約束の地』を思わせる映像で贖罪の旅を寓話的に描いている。しかし、物語が薄っぺらすぎて展開にも映像にも命を与えられず、カビだらけの巻物と死んだ絵のようになっているのが勿体なかった。

なんとなくのイメージだけど、来年の京都ヒストリカとかに来てそう。
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