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ビルの楽しいクッキングのdm10foreverのレビュー・感想・評価

ビルの楽しいクッキング(2017年製作の映画)
3.5
【確信犯】

これもニール・ブロムカンプのショート作品集「Oats Studios」の中の1作。
まず、もしこれからご覧になる方は「お食事中はもちろん、食事の前後1~2時間」の視聴はご注意いただいたほうが良いです(適度にグロい映像も紛れてますので)。
ちなみに自分も食後に軽い気持ちで見始めてちょっと後悔しました・・(笑)

この作品は、先日鑑賞した「RAKKA」や「FIREBASE(密林の悪魔)」とはうって変わって、いわゆるシュールなブラックコメディ。

日本でも深夜によくやっている「TVショッピング」の最中に笑えないハプニングが次々と巻き起こる・・・っていう設定なんだけど、そこはさすがのブロムガンプ。
見せ方の拘りはこの作品にもちゃんと練りこまれている。

タイトルからも分かるように、ビルというおじさんとアシスタントのカレンという女性が出てきて、クッキングをしながら最新型の便利アイテムを紹介しつつ、テロップで「数量限定。今すぐお電話を!」と視聴者を煽る、よくあるシステム。
この如何にもインチキ臭いガジェットの数々は、80年代の「質よりインパクト」が重視されたハチャメチャな時代の匂いも漂って、この時点で結構好き。

で、「真面目にバカをやる」というコンセプトはモンティパイソンにも通ずる部分でもあり、個人的にツボは一緒。
なんだけど、今作にモンティ~で描かれたような「風刺」や「シニカル」というエッセンスは含まれずに、ただただ露悪的な内容に終始する。
なので、たぶん多くの方は「何だこれ?」ってなると思う。

でも、2~3歩下がって俯瞰で見てみると、中々憎い設定を忍ばせてもいるよなっていう気もしてくる。

映像を見てまず気になるのは、いわゆる「VTR映像」であるということ。
しかもあの映像のトラッキングの乱れ具合からすると恐らく家庭用の機器で録画されたものだろう。
(もし、放送局のアーカイブであればもう少しクリアな映像が残されているはず)
そして、何回分かの放送がまとめて録画されていることからも「単に一回だけ起きてしまった偶発的なハプニング」ではなく「数回の放送に渡って毎回のように起きたハプニング」であったことも分かる。

この2点からわかること。
それはこの番組に対して毎回録画をするくらいにある種の「期待」を持って観ていた視聴者がいたということ。そしてその視聴者の「期待」に対して番組側も意図的に応えようとしていたということ。

そうなるとどういうことが起きるか?

ハプニングは偶発的であるからこそ程度を問わず絵になる。
しかし、仕組まれたハプニングは「more more・・・」と徐々に過激さを求めるようになっていく。
何故なら「ハプニング」の匙下限すらも製作側が行うことが出来るから。

そういう観点でもう一度この作品を思い返してみる。
ビルとカレンが果たしてこの「ハプニング」を事前に知らされているのかまではわからない。
ただ「生放送だから何があっても最後まで笑顔で!」くらいはスポンサーに言われているのだろう。

そうやって「オンエア」となる番組。
楽しそうにクッキングしながら新商品を紹介するビルとカレン。
しかし、絶対にうまくいかない。
何故なら「視聴者」と「番組側」はそんなものを望んでいないから。
ただ、カメラの前に立たされたビルとカレンが追い詰められる様子をモニターやTVの向こうで笑いながら見ている光景。
・・・ある意味ホラーです。

なんて言いながらも、この「番組」を見ながら僕自身も(フフッ)と笑っていた。
そういうことだよね。
いつしか自分も「期待」しながら見ていた。
ある意味では『8時だよ!全員集合!』の「志村~!後ろ~!!」のようなお約束の様式美。
そこにシュールを通り越して悪趣味なものを求めるようになった僕も、この作品の構成の中に存在する「視聴者」の一人なのかもしれない。

モンティパイソンを比較に挙げたけど、やっぱり明らかに毛色は違う。
なんだろう・・・・残る。
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