Dantalian

イニシェリン島の精霊のDantalianのレビュー・感想・評価

イニシェリン島の精霊(2022年製作の映画)
5.0
Padraicに対する怒りの中で全編を観ていた。
彼に対する怒りは同時に私が大学に入るまでの周りのほとんど教師、親戚、そして父親に対する怒りでもある。
精神生活を持つだけで馬鹿にされて、悪意の満ちた言葉で揶揄されるシーンはあまりにも馴染み深い。精神生活を持つことは、優越感と生意気としか彼らの目に映らない。ほっといて、と言うのは無効な言葉である。精神世界があるだけで彼らの敵になり潰さないといけない対象になる。
自分の生活に不満とコンプレックスがあるから、理想となる精神生活のある人に悪意を向ける、といったような精神分析すら私は冷静にできないし、そう考えたくもない。彼らには一瞬でも人生にはより崇高なものがあると考えたことがある、考える能力があると思えない、許せないから思いたくもない。
国語の共通性と美しさを民族主義の武器にする人は、絶対に精神生活のある人ではない。なぜなら、同じ国の言葉を話していても、モーツァルトが語彙に入ってる人とそうでない人の言語体系は全く異なるものだから。「あなたみたいに50年後だれにも覚えられていない人と違って、モーツァルトみたいに歴史に名を残せる人もいたのだ」に対して「は?」と返答した瞬間、この二人は全く言語体系を持っていることがわかり、永遠に分かり合えないことがわかる。
本作の方言の存在感が強ければ強いほど、言語が通じない絶望感も大きい。
「1回話しかけてきたら指1本切り落とす」と発話する人の覚悟を、言われる側は悪意としかとらえられない。「あなたは指5本失ったかもしれないけど、こっちは自尊心が傷ついたんだぞ!!どう償ってくれるんだ!」の脳回路にしかならない。「お前の指5本で俺の自尊心と引き換えになるわけない、殺したって許せない」。馴染みがありすぎて劇場で泣きそうになった。
無知は最強だよね。無限な搾取、無限な悪意をどうにでも正当化できるから。
つらすぎるけどリアルすぎる。
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