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デリシュ!のLCのレビュー・感想・評価

デリシュ!(2021年製作の映画)
3.8
面白かった。

Restaurant (レストラン)は、「良い状態にする」という意味のラテン語から来ている言葉。
人を元気にする栄養満点の食事が供される場所、ゲームだとダンジョン内の回復ポイントにイメージが近いかもしれない。
本作を見ていても、この基本となる考え方がきちんと反映されていることがわかる。

貴族さんがとても面白い。
主人公の腕をきちんと評価するだけの舌を持つ者は少なくて、殆どは「見た目が綺麗」と褒めたりしていて、本当に面白い。
どんなに丹精込めて作っても、それがどれだけ凄いことなのかわからないんだね。味がわからないというわけではなくて。
酷い料理に接する機会が悉くないんだろう。料理は美味しいもの、美味しくて当然、そう思ってる。凄い世界に住んでいるね。
だからこそ、その「凄い世界」と「その他の世界」の断絶が鮮やかだなあと感じられる。
そして、住む世界が違うだけで、双方間が「人間として」かけ離れているとも思えない描写も入れてくれている。気楽に人の言葉でケラケラ笑える陽気さと、今真面目な場面だわ、とわかった時の「右ならっとけ」感は流石だった。どんな世界にいても、大体人はそうだよね。

貴族さんは他にも、様々な言葉や行動で価値観を教えてくれる。
市民が声を上げたら叩いてあげるんだ、自分の立場を思い出して家に帰ることができる、とか。
どんなに市民が騒いだところで、うるさいだけだし、ほっといても問題ない、とか。
お金を稼いだらお上にお金を払うんだよお、とか。
どんなに市民に嫌われたところで、痛くも痒くもないと思っていたんだなあと目の当たりにできる。私たちを倒す力は、市民にはない。そうだろう、君。
そういう考え方の下、主人公や周囲の人たちは傷つけられていくわけで。どんなに縋り付きたい、信じたいと思っても、貴族さんである限り相手が考え方や態度を変えることは、もはや困難だったろう。権力が揺るぎなくて、且つお金に困らない仕組みを作り上げて、続けていく、その中で違う立場の者に想像力を持って接し、自省できる人の方が、人間離れした存在だ。

主人公たちは、お互いがお互いに作用することで料理に対するやる気も、何かから投げ出された傷も、その場所で回復させていた。
たぶん、貴族さんも、忘れた頃にその場所へ足を運ぶかもしれない。大好きな主人公の料理を楽しむ、そんな人々と触れ合える場を欲していたんだから。
そして、革命できっとたくさんの貴族お抱え料理人が路頭に迷うことになったと思うんだけど、たぶん、レストランは彼らの受け皿としても救いになったかもしれないね。

Restaurant という言葉が、心にじんわりと染みる作品だったと思う。1人ひとりが何を回復させたのか、何を回復させていくのか。みんなで良い状態にしていこう。そんな希望がある。
鉄柵を鍵でカンカンカンカンするおばちゃん大好きだったぜ。
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