平田一

アンビュランスの平田一のレビュー・感想・評価

アンビュランス(2022年製作の映画)
4.2
“逃走車は救急車”

『トランスフォーマー』『アルマゲドン』のマイケル・ベイ監督が2005年のデンマーク映画(『25ミニッツ』)をハリウッド・リメイク。固い絆で結ばれている義兄弟が企てた銀行強盗が予想外の事態を広げていくことに。義兄弟を演じるのは『ドニー・ダーコ』『サウスポー』の演技派ジェイク・ギレンホールと『アクアマン』『キャンディマン』のヤヒヤ・アブドゥル=マティーン2世。人質となる救急救命士キャムにはエイザ・ゴンザレス(『ゴジラ VS コング』)。

幼いころから固い絆で結ばれているダニーとウィル。ウィルは妻の手術代で保険会社に相談するも、保険金は下りることが出来ないと判断される。ウィルは義兄弟であるダニーに協力を求め、簡単な銀行強盗への協力を持ちかけられる。それが人生を変える一日だと気付かずに―――。

映画館で見たかったけど見れる機会を作れなくって、アマプラ見放題と聞いて今日ようやく見れました。

結論から言ってしまうと、

マイケル・ベイ流『コラテラル』で、未見ですけど『狼たちの午後』のような作品です。元ネタはどんな話かまったく知りませんけれど。

義兄弟の絆が招いた銀行強盗、カオスな被害。それがもたらす想定外の悲劇と試される絆。『トランスフォーマー』シリーズで磨きに磨いたカオスの手綱を見事に操作していたのが流石マイケル・ベイですね。しかも中身のドラマにおいても中々深みが詰まってて、ベイ映画で評判が良いのも成る程納得です(そもそもボクはベイ映画子供の頃から好きですが)w

義兄のダニーは考えるより即行動がモットーで、その姿勢がさらなる被害を招くトラブルメーカーです。このあたりは以前ベイが『ペイン&ゲイン』において掘り下げたボディビルダーたちとどこか似てますし、それがさらに拍車をかけたらどうなるかってアンサーですね。でも義弟を思う気持ちは本心なのが伝わるから、クライマックスからはとにかく圧巻の一言です。『サウスポー』でもそうなんですが、ジェイク・ギレンホールというのは怒りを原動力に動くキャラの体現が絶妙。制御できず右往左往しまくる姿はリアルだし。

逆にヤヒヤ・アブドゥル=マティーン2世が演じるウィルの方は理性の声で、どこまで行っても「道を間違えた善人」。誤射による事態の悪化、焦燥と恐怖心を動きじゃなくって表情で体現したのが良いですね。ラストで彼にほんのちょっと救いが下りた場面では、罪は許さなくていいから、今だけは許してほしいと思わずにはいられないやさしさに満ちてます。確かに彼は冒頭からあまりに不憫でしたしね……。

ここから予想外に深みを感じた二組です。

一人はエイザ・ゴンザレスの救急救命士キャム。仕事に対して淡々と取り組んでいた救命士が生死のかかった極限下で大きな変化を遂げていく。そして過去を乗り越えれるかも試されることになる……これは是非ラストまで映画を完遂してほしいけど、まさかこれほど深みを帯びたキャラとは思わなかったです。演じるエイザ・ゴンザレスはこれまでのベイ映画のセクシーヒロイン枠でなく、仕事に準じる人間として演じたいたのが良かったですし、ラストシーンで見せた涙は非常に多層的でした。

もう一組はマーク巡査とザック巡査の二人です。彼らは偶然巻き込まれたどこにでもいる警察官で、マーク巡査が誤射で撃たれて、救急車に搬送される。しかしその救急車がダニーとウィルにジャックされて、図らずも彼らの生死を分ける役目になってしまう。この映画のシーソーゲームの担う中心キャラであり、ザック巡査はマークを助けるために彼らを追っていく。実は一番ベイ監督が力を注いだパートでは?って本編を見終えた今、そう感じ出しています。だからこそマーク巡査が最後に下した決断と、ザック巡査が率先して“アレ”をしたのも納得です。この二人はウィルと同じで映画のハートかもですね。演じるセドリック・サンダースとジャクソン・ホワイトは初めてですが、もしかしたら将来期待の役者になるかもしれません。あくまでボクの見解ですが、そんな予感がしたので✨

ドローンを使った撮影技術はとにかくグルグル回るので、ちょっと酔ってしまいそうな時も一回ありましたが、何かそれがだんだん大事に思えてくるのが不思議です。おなじみのベイ・ヘムもかなり炸裂してますし(笑)。

まとめると、マイケル・ベイの進化が色濃く溢れてて、映画作家としての才が一つ上がっていた映画。それも極めてドラマ面での深みが上がっていましたね。ベイ・ヘムを継続しつつ、並行して描かれる、

「一日で大きく変わる人間の物語」

これからのベイ監督作もますます楽しみです!
平田一

平田一