lentoさんの映画レビュー・感想・評価

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バグダッド・カフェ 完全版(1987年製作の映画)

4.5

この作品を振り返るたびに、映画にとってのディスクール(discours:表現されたものの総体)とは何かということを思わずにいられない。

それは、映画的と言えばこんなにも映画的な作品は、それほど多くな
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アメリカの友人(1977年製作の映画)

4.5

おそらくはヴィム・ヴェンダースの資質に宿っているだろう放浪性が、パトリシア・ハイスミス原作のもつスリラー性に導かれ、あるいは響き合うように結実した印象があり、とてつもなく面白かった。

彼の放浪性がど
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ベルリン・天使の詩(1987年製作の映画)

4.5

この映画を脇から観ていた妻が、「この人あなたにそっくり」と言ったことがある。つまり彼女に言わせると、僕の前世は天使だったことになる。

スピリチュアルやオカルトという意味での前世を、積極的に信じてはい
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パリ、テキサス(1984年製作の映画)

5.0

ヴィム・ヴェンダースの作風の核心にある放浪性が、内的なモノローグのようにではなく、外的な不可解さとして立ち上げられることによって、むしろ観ているこちら側の内的な声に溶け込んでくるような感覚があった。>>続きを読む

ノーカントリー(2007年製作の映画)

4.5

世の中の不条理に(それはもしかすると無自覚に自らが招いたものであったとしても)、ぐっと唇をかみしめなければならない日があったとしたら。

コーエン兄弟ならではの一周回る屈折を経ながらも、ストレートな味
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ファーゴ(1996年製作の映画)

4.0

喜劇(コメディ)が究極的に目指すのは、人の性(さが)に横たわる本質的な哀しみの表現なのかもしれない。

抜け出そうとするほどに、深みにはまっていく逆説。それは古代ギリシャのアイスキュロス、ソポクレス、
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カリートの道(1993年製作の映画)

4.0

ブライアン・デ・パルマ監督とアル・パチーノ主演のタッグによる、『スカーフェイス』(1983年)と『カリートの道』(1993年)について、『スカーフェイス』は愚かさのなかに生きた男の話として映り、『カリ>>続きを読む

スカーフェイス(1983年製作の映画)

4.0

古代中国の「矛盾」の語源となった逸話から、聡明さと愚かさのどちらが強いのだろうと思いを巡らせることがある。

聡明さは、どんなときでも他者性のなかに自己を開いていくいっぽう、愚かさは、どんなときでも自
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ピアニスト(2001年製作の映画)

4.0

男性がオイディプス神話に象徴されるような「父殺し」へと向かう宿命をもつなら、女性もまた別の神話による「母殺し」へと向かう宿命をもつのではないか。

しかし、彼女たちは直接的に母へと向かうのではなく、そ
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ブラック・スワン(2010年製作の映画)

-

オイディプス神話のように、象徴的な意味での父殺しを描いた名作は『ブレードランナー』(リドリー・スコット監督, 1982年)をはじめ数多くあるいっぽうで、母殺しを扱った作品がそれほど多くないのは、ジェン>>続きを読む

マシニスト(2004年製作の映画)

-

ここに描かれる主人公と同様に、不眠に悩まされていた頃に観たため、その痛切な思いを自分自身のことのように思いながら、深夜から早朝の気配へと移り変わっていく時間を過ごした思い出がある。

映画は映画館でと
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タリーと私の秘密の時間(2018年製作の映画)

4.5

僕は父親であるものの、乳幼児からの子育てを、もしかすると妻以上にやってきたところがあるため、この映画に描かれるあのシーンやこのシーンが痛切に伝わってきた。

監督は『JUNO/ジュノ』(2007年)や
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ナイトクローラー(2014年製作の映画)

-

観ようによって、様々な意味合いに受けとることのできそうな、多義的で象徴度の高い映画だった。

原題『Nightcrawler』とは、夜(night)に這い出るミミズ(crawler)の意で、パパラッチ
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mid90s ミッドナインティーズ(2018年製作の映画)

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ある特殊性を描くということは、ある普遍性を描くことでもある。このことを、端的に表した作品のように思う。タイトルの『Mid90s』にもそのことは表れており、脚本・監督を務めたジョナ・ヒルにとって、それは>>続きを読む

クローブヒッチ・キラー(2018年製作の映画)

-

少年の姿をしながらも、どこか少女のなかに宿る少年性として、心象風景のように描かれた『荒野にて』(アンドリュー・ヘイ監督, 2018年)の少年を演じたチャーリー・プラマーは、本作では正真正銘の少年を演じ>>続きを読む

荒野にて(2017年製作の映画)

-

この映画に造形された1人の少年は、かつて少年期を生きた者よりも、もしかすると、少女期を生きた記憶に、深く結びつくのではないか。そうであったことも、そうではなかったことも含めて。

監督・脚本はアンドリ
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ドラゴン・タトゥーの女(2011年製作の映画)

4.5

優れた作品の多くが、二律背反(にりつはいはん)を背景としているのは、人間が本質的に、背反のなかに生きざるを得ないからかもしれない。

分子生物学者の福岡伸一氏の唱える「動的平衡」という考えもまた、死へ
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ベンジャミン・バトン 数奇な人生(2008年製作の映画)

4.0

愛する人を、最善を尽くして愛す。

ただこれだけのことが、これほどまでに痛切で美しく、そして残酷になることさえある。原作となったスコット・フィッツジェラルドによる小説がどういうものかを僕は知らないもの
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ファイト・クラブ(1999年製作の映画)

4.0

ドラマの本質として、自己と他者という別の人格に生きる者の間に、ある対立を描くことが挙げられるように思う。また一般的には、そうした対立を乗り越えていく場合はハッピーエンドに、乗り越えられない場合にはバッ>>続きを読む

セブン(1995年製作の映画)

4.0

少年時代から思春期、青年期、そして現在の中年期に至るまで、何かにジッと耐えているような人がずっと好きだった。なぜだろうと振り返ったときに考えられるのが、そうした人には、ある種の美しさが宿るからだろうと>>続きを読む

天国にちがいない(2019年製作の映画)

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そうか俺もジジイになったら、こんな格好をして、こんなふうにしてたらいいんだと、静かな勇気がもらえたような気がする。妻にそう言って、主人公を本人役で演じる監督(エリア・スレイマン)の姿を見せたら「うん、>>続きを読む

希望の灯り(2018年製作の映画)

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おそらくは『2001年宇宙の旅』(スタンリー・キューブリック監督, 1968年)の宇宙船として見立てた(COSTCOのような)郊外型スーパーマーケット。映画のオープニングでこの店舗の映像と共に、ヨハン>>続きを読む

水を抱く女(2020年製作の映画)

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もしもこの映画が、都市論として描かれていたなら、最高に素晴らしかったのにと思わずにいられなかった。

その萌芽は、女性の主人公がベルリンの都市開発の研究者であり、博物館のガイドとして働く設定に表れてい
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未来を乗り換えた男(2018年製作の映画)

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映画でしか描きようのないショット。効果的なナレーション。

こうした、いわゆる「映像と音」による純粋な姿に接すると、映画のもつ雑種的な魅力はいったん脇に置いて、つい鼻持ちならない原理主義者のようなこと
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カット/オフ(2018年製作の映画)

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いわゆるバディものと呼ばれる作品については、はじめは別々の方向を見ていた2人(1対1)が、たとえばある出来事をきっかけに、やがて同じ方向へと進んでいくような共同性のなかに、ドラマとしての魅力が宿ってい>>続きを読む

本当の目的(2015年製作の映画)

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女が、ただ女であることの風景。観ているうちにプロット的なものは後退していき、前景として映されたのはそんな情景だったように感じる。

そして、女が女として存在するためには、男という性に照らし返される必要
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フォックスキャッチャー(2014年製作の映画)

4.0

この映画に描かれるものは、2つの魂の孤独がそれぞれの欠損を埋めるように引き寄せあいながらも、やがて一方の抱えた欠落の深さによって崩壊した姿になるだろうと思う。

主要な登場人物は男性3人であり、そうし
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カポーティ(2005年製作の映画)

4.0

人の心の孤独について描いた作家や作品は数多く存在しており、むしろ孤独に触れない作品のほうが少ないようにも思う。しかし、それを魂の領域にまで踏み込みながら、映像の質感として浮上させるように描いた映画監督>>続きを読む

アマンダと僕(2018年製作の映画)

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パリの街並みの美しさが、登場人物たちの見せるあらゆる感情の背景として、アパルトマンの窓の向こう側に撮られているのが印象的だった。そうした丁寧な描写が、映像としての力にもなっている。

監督のミカエル・
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サマーフィーリング(2016年製作の映画)

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ある空白地帯のように喪失を中心に据える手法は、日本では朝井リョウ原作『桐島、部活やめるってよ』(吉田大八監督, 2012年)や、古くは紫式部『源氏物語』などにも見られるもので、近年のフランス映画では、>>続きを読む

あのこは貴族(2021年製作の映画)

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前作『グッド・ストライプス』(2015年)から、まるで詩のような印象を受けて魅了された岨手由貴子(そでゆきこ)によるこの作品は、山内マリコに原作を求めたためか、そのナチュラルな感性が、やや後退している>>続きを読む

グッド・ストライプス(2015年製作の映画)

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ある種の優しさが愛にまさることがあるなら、この映画のようになるのかもしれない。

監督で脚本の岨手由貴子(そで ゆきこ)は、ノートに詩を書くように脚本を書いたのではないだろうか。スタイルとしての詩では
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マルホランド・ドライブ(2001年製作の映画)

4.0

本作に観るデヴィッド・リンチの描く魔的世界は、いわゆる第4の壁(fourth wall)と信頼できない語り手(Unreliable narrator)の2つを、魔術的に混交(こんこう)するような形で生>>続きを読む

ストレイト・ストーリー(1999年製作の映画)

4.0

ストレイトという名前とは裏腹に、一筋縄ではない不吉さや深みを宿したデヴィッド・リンチらしい作品のように感じる。哀しみをたたえているとはいえ、一見するとあたたかなヒューマンドラマのように感じられるいっぽ>>続きを読む

ロスト・ハイウェイ(1997年製作の映画)

4.0

処女作『イレイザーヘッド』(1977年)から、代表作として名高いTVドラマ『ツイン・ピークス』(1990-1991年)に至るまで、デヴィッド・リンチの世界にはいつでも魔界に通じる道がある。またその魔界>>続きを読む

ブルーベルベット(1986年製作の映画)

4.0

公開当時、センセーショナルな存在だったかもしれないこの作品を、『ロスト・ハイウェイ』(1997年)や『マルホランド・ドライブ』(2001年)、そして熱愛した『ツイン・ピークス』(1990-1991年)>>続きを読む