晴れない空の降らない雨

ペリーヌ物語の晴れない空の降らない雨のレビュー・感想・評価

ペリーヌ物語(1978年製作のアニメ)
4.2
 世界名作劇場第4作。これも当初は高畑が監督の予定だったらしいが、原作が気に入らなくて辞退し、後任は現地ロケの時間がとれないとか色々大変だったらしい。こいついっつも人に迷惑かけてんな。
 「ノッペリーヌ」と揶揄されることもあった(らしい)地味なキャラデザのせいもあって、初期の名劇の中では知名度が低いものの、アマプラに来てから徐々に評価を上げているご様子。なお、関修一は、本作から名劇の多くの作品でキャラデザを担当するようになる。
 
■後半が痛快な作品
 名劇あるあるだが、前半と後半で別物。前半は写真師の娘としてロバ車で旅を続ける。後半は工場経営者の祖父のもとで(孫であることを隠しながら)働く。正直前半はスローペースで退屈なエピソードも多い上に、途中の不幸話が長めに続くのもつらい。しかし、ここを観ておくことで、後半における“ペリーヌ無双”のカタルシスを存分に味わえる。ただ、作画はシナリオと逆に段々と悪くなっていった印象。当時のスタッフの苦労が偲ばれる。
 後半は、これまた名劇あるあるの典型的「金持ちパワーで救われる」話だが、主人公の実力による出世物語になっているから、この辺りの「何だかなぁ」感を払底している。少なくとも80年代作品に比べたらずっとマシ。とはいえ、監督を辞退した高畑が原作を気に入らなかったのは、その金持ち頼みのハッピーエンドが理由かもしれない(『ハイジ』は頼っているわけではない)。
 
■主人公ペリーヌについて
 久しぶりに前半を軽く見返して驚いた点がある。ペリーヌの性格が前半と後半で結構違うことだ。そもそもペリーヌは第1話で、夫との死別に落ち込む母親を気丈にも慰め、写真師として商売をするよう提案するほど、しっかりした子どもである。その一方で、飼い犬のバロンの扱いは結構ぞんざいで意地悪なことも言うし、敵対者には一歩も引かない気の強さもある。
 特に7話から旅を共にするマルセルに対する態度によって、母親のマリとペリーヌの性格がかなり対照させられている。7話の初対面のマルセルに対するペリーヌの剣幕なんて、かなり激しい。
 その後ライバル写真師をやっつけるエピソードの中で、ペリーヌの性格についてマリがたしなめるが、これは作中でも非常に重要なシーンである。このとき「人に愛されるには、まず自分が人を愛さなくては」という言葉が登場し、これが後半で強力に効いてくるわけだ。村に到着するまでは完全にオリジナルらしいから、制作陣が最初から考えていた構成だろう。
 
 そうはいっても後半のペリーヌは完璧すぎる。それに、「御者できます」というけど、ヤギにゆっくり車を引かせるのと、本物の馬車の御者をやるのはちょっと違うんじゃ……とかツッコミ所もなくはない。後半で披露される様々なスキルを学習する話が前半に欲しかったところ。
 ペリーヌ役の鶴ひろみは本作が声優デビュー作で、序盤は演技に違和感あるけど話が進むにつれて上達していく。
 
■相棒のバロンとパリカールについて
 名劇というと必ず主人公に動物の相棒がいるイメージだが、全体でみると多くない。犬のバロンとロバのパリカールは素晴らしい脇役で、特に間抜け面の雑種犬バロンはコメディリリーフでもあり、本作の癒やし要素でもある。エンディングテーマにもなっている重要キャラだ。パリカールも前半の酔っ払いエピソードや、後半のアレコレなど見せ場が多い。
 
■ほかの登場人物について
 よく出来た名劇は常にそうだが、大人たちの描写に「こんなもんだよな」的リアリティがあってよい。やたら執拗に主人公をいじめる「嫌われ役」はおらず、単に私利私欲に汚い大人だったり、そういう人らにも多少の人情味があったりする。後半の悪役であるテオドールとタルエルについては、テオドールはやや漫画的だが、タルエルの打算的で権威主義的な性格は実に組織人らしさがある。また、テオドールの母親も不快な印象のある人間ではあるものの、あくまで息子思いゆえの行動であると納得できる。