くま

アルプスの少女ハイジのくまのレビュー・感想・評価

アルプスの少女ハイジ(1974年製作のアニメ)
-
神山 『ハイジ』と『三千里』 これはやっぱり宮崎(駿)さんと高畑(勲)さんという、2人の天才の功績です。当時は僕も子供だったから、作ってる人間の名前も知らない状態で観てましたけど、この2作品は明らかに同じ人が作ってると思ったわけ。小学校の1年生と3年生でしたけど。しかも『ハイジ』と『三千里』って作品傾向が全然違っていて、子供の頃には『三千里』はちょっと辛すぎてですね、正視するのが困難なぐらいでした。やはり、リアリティというか、キャラクターに真実味があるというか。この作品も意図的にアニメで起こるお約束を排除してるわけですよね。さっきの『ガンダム』と違うところは、この2作品が画柄で普遍性を獲得してるところだと思うんですよ。『ガンダム』は安彦(良和)さんの天才性のために、今観ても素晴らしいんだけど、やっぱり流行の波に抗えない部分が、ちょっとあるんですよね。でも、この2作品に関してはね、映像について普遍性を獲得してるところが、またエポックだなと思うんですね。
―― 全然古びてないですね。
神山 うん。まずデザインが優秀なんです。宮崎さん自身がデザイナーというわけではないですけれど、基本的なベースラインについては、宮崎さんの功績があると思います。それと同時に、演出処理的な点についても、普遍性を帯びてるところが凄いんですよ。セルの塗り分け、業界用語でいうと色TPというやつですよね。あれで表現できないものはないんだという理念のもとに、演出手法を駆使してるわけです。まあ、これは相当な力業なんですけど、それを徹底してやってるために風化してない。この両方ですね。デザイン面と演出処理、両方で普遍性を獲得してるんですよ。
―― セル画と背景で表現しうる事は、極限に近いところまでやっていますよね。
神山 突き詰めてますね。デジタルエフェクトとなどがない時代に、あれだけの表現方法に到達している。TVシリーズのかなり初期の段階で、あそこまで行っている。若い人が観ておくべきだと思いますね。これは確実ですね。これは何度観てもいいですね。

―― 『鉄腕アトム』が昭和38年で『ハイジ』が昭和49年だから、『鉄腕アトム』から11年しか経ってないんですよ。
神山 そうです。それほど経ってないわけですよ。
―― それなのに、あの脅威のクオリティが。
神山 ええ。ほんとにそう思いますね。セル画を撮影台で撮るっていう事に関しての究極のスタイルだと思いますね。それから、言うまでもなく高畑さんの演出。脚本を含めたディレクションが完璧なんです。いまだに世界中の人が観続けてるのは、全ての面において普遍性を獲得しているからでしょう。流行に乗っていくのも非常に重要な事なんだけれども、アニメが消費されてしまうだけのものではなくて、後世まで残っていく普遍性を持ち得るという事の、ひとつのヒントにはなるはずですね。僕はそう思って、選びました。
―― 素晴らしい。『三千里』は絶対に観なきゃ駄目ですね。
神山 そうですね。染みこむまで観ないと(笑)。
―― しかも、1話から順番に観る。
神山 ちょっと観るのがつらくなったりしてほしいですね。
くま

くま