このレビューはネタバレを含みます
ものごとの本質に気付かされたり共感したりと、日常の中の哲学的な学びが随所に隠されている物語だった。
「大体の人が、大人になろうとしてなったのではなく、子どもでいられなくなった」
など、共感性の強い名言も印象に残った。
他種族の価値観でものごとを見られるようにするというのは、すごく難しいことだ。
ドラゴンであるトールが人間を理解しようと努める様は、とても健気で惹かれる。
破壊と混沌を望む"混沌勢"のトールが、人間のそばで平和な生活を望むのは、一見"混沌勢"らしくなく異端のように思えるが、ドラゴン界の秩序を壊し、人間と共存する混沌の道を選び、調和を乱している存在という意味では、まさに"混沌勢"らしい行動をしていると納得した。
カンナが特に尊い。
一言一句一挙一動が可愛すぎる。
最早マスコットキャラ。
多様性と言えばなんでも認められる、皆違って良い時代に、カンナは真逆の考え方。
運動会のリレーで、人間の力に合わせて手を抜いてギリギリで勝ち、息切れしていないカンナには笑ったが、「みんなと一緒が良い」と、自分だけが特別だということを嫌がるところにはまた気付きがある。
特に日本人によく見受けられる、集団心理による同調圧力やマイノリティの疎外といったマイナスに捉えられる民族性が、ポジティヴな面から描かれているのだ。
カンナもまた、他者と共存する為の協調性を学び獲得しようとしている。
人より優れているからといって、力を誇示するより、孤独になる方が嫌なのだろう。
一見、百合作品のようでもあるが、働く父と家を守る母と癒しの子という、理想の穏やかな家庭の縮図がここにはあった。
武本康弘監督の京アニ作品をもっともっと観たかったなあ。