セイウチドライバーの多重ミステリー
かなり難解な部類の作品と言って良い。この、今にも物語から振り落とされそうになるスリルが良い。
ストーリーの展開と共に、小戸川を中心に事件が重層的に繰り広げられ、そうして丁寧に撒かれた点が徐々に繋がっていく。毎話何らかの要素が加わり、事態が複雑化し、しかし一定に進んでいく時間軸の中で、物語は否応なく進行していく。そんな感覚なのである。
最終話でこの世界観の全てが明かされ、丁寧に散りばめられてきた伏線が、見事に回収される。一見関係の無いように思われた要素も、本作においては重要な1要素となる。これほどまで濃密なアニメはそうそうない。ポロショコラくらい濃い。そして鮮やかに回収するから、後味は案外爽やかなのだ。
大門弟へのドブの録音データのメールとか、10億円強奪の作戦をヤノに見抜かれて失敗するんじゃないかとか、小戸川がドブを裏切ろうと手回ししていることに気づかれるんじゃないかとか、展開が展開だから色々な障壁を想像したが、どれも起こらなかった。本作の難解さとかスリルとかは、あくまで多重要素による事態のブラックボックス化にあって、ストーリー自体が観客を騙すことは無い。この点を徹頭徹尾守ったことで、難解だが、ストーリーから振り落とさせることは無いという、絶妙なバランスを保つことに成功した。
主題歌も、タッチも、出来事へのフォーカスの当て方も、どれをとってもセンスが秀抜している。思えば1話の時点で、作品と観客の間に広がる時間とか空間とか若しくは空気感みたいなものを掌握していた気がする。タクシーの車内、ラジオの音声、夜の東京。その文字列からも、この世界観に陶酔させられる。そしてその世界観にPUNPEEさんの楽曲が完全にマッチしている。
全てにおいて完成させられた、唯一無二の傑作。