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イリヤの空、UFOの夏の味噌汁のレビュー・感想・評価

イリヤの空、UFOの夏(2005年製作のアニメ)
3.0
 OVAって最近だと見かける事が少ないが、当時はどういう立ち位置で製作されていたんだろう。今と同じくファンディスクの要素が強いのだろうが、今なお一つのジャンルの代名詞として名を馳せるくらいに有名という事は新規ファン獲得にも大いに貢献するほど偉大な作品だったといえる。

 『新世紀エヴァンゲリオン』のヒットにより、なんて雑な紹介がされがちだがこの作品以降〝セカイ系〟なるアニメジャンルが到来する。詳しくはwikiをみてもらえれば幸いだが、代表的な作品としては高橋しん氏の『最終兵器彼女』や新海誠氏『ほしのこえ』なんかだろう。こうした作品はどれもナイーブな少年がひとりの少女と出会い、世界の危機に直面する出来事を軸として描かれる。従来の物語であれば〝男性が女性を守る〟構図が主に多用されるが、セカイ系では逆に〝女性が男性を守る〟構図なのも特徴的。主人公自身が現実と向き合い〝ヒロイン=理想〟を手にするのではなく、その両者を女性に直面させる事で精神的に未成熟な男性が成長〝させられる〟のだ。ジェンダーで括ってしまっている事には失礼極まりないかもしれないが、生命の源とも呼べる女性に対して現実と理想の2つの要素を付与することで、同年代の異性でありながらも母親のような要素を内包した存在に描かれる。こうした自閉的な空間の中から〝世界の危機=現実〟と直面する事で、子供だった内面を強制的に大人にせざるを得なくなってしまう。これは作者たちの心情か、この年代以降から大きな社会問題となってしまう引きこもりの増加を反映しているのか。少なくともこの系統が流行った理由としては、当時少年だった若年層と主人公たちが辛い事に向き合わされる現実と社会的に弱い立ち位置において共通していたからだろう。

 このジャンルの古典とも呼べるほど王道な展開で学べる事も多かったが、原作未読のせいか要所要所で重要な部分が省略されているため中盤辺りは非常にわかりづらい。寡黙な少女がヒロインのためこの娘がどういう心情なのかも読み取りにくいので、突拍子もない主人公への好意など「?」と感じてしまう。まぁ同系統の作品が多いためなんとなくの保管はできるのだが、少女や大人サイドの心情ってのをもう少し描写してくれていたらもっと没入できたかも。(子供目線で描かれているため大人の描写が希薄なのは仕方ないかもしれないが、作者自身も成長していないと仮定するなら描けないというのが適切か。)ただ大人しい少年がひと夏の経験を経て大人になる所とか、直之の信念が一貫してブレていないのは古臭さを感じながらもとても好感触。決してハッピーエンドとは呼べないけど、胸を締め付けられるような悲しさと季節が過ぎ去っていく清々しさを覚える感覚は流石名作だなと思った。
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