Netflixの良作アニメ。北欧をモチーフにした架空世界で、少女ヒルダとファンタジー生物との交流を描く。架空の舞台ではあるものの、PC普及以前の現代世界という感じでハイファンタジーではない。内容は児童向けだが、キャラクターはみな一癖も二癖もあるし、必ずしも話がスッキリ解決して終わるわけではなく、大人が観ても味わい深い。簡素だが決して単調ではないデザインや、落ち着いたカラーリング、エレクトロニカ味あるBGMなどで独特の雰囲気がある。
基本的に一話完結だが次回以降への引きがある回も多く、特にシーズン1は構成が巧い。
人里離れた山で母親と二人暮らし(ペットもいる)のヒルダだが、巨人に家を踏みつぶされ、最初の数話で都会へ引っ越すことになる。そこで人間の友達を作りながらも相変わらず不思議な生き物と交流する話が続くのだが、最終話の少し前に森で迷子になる展開がある。
ここで初期に登場していたウッドマンなる食えぬ男と再会することもあり、視聴者にシリーズ序盤を振り返らせる効果があるのだ。また、久しぶりに人間のいない環境に置かれたヒルダは元来の自然好きが復活する。これも、もともと町への転居にヒルダが否定的だったことを思い出させる。その後、最終話の展開ではヒルダたちとは逆に町から森へと移り住むキャラが現れることで、別の選択肢がヒルダたちに示される格好となる。こうして「町か森か」というテーマを視聴者に向けて暗にリマインドしているわけだ。
よりダークファンタジー味が増したシーズン2を通じて描かれるのは、人間とトロールの対立と和解の物語である。本作のキャラは人間・非人間問わず普遍的な共感や同情を誘う性格をしているとは言いがたいのだが、シーズン2ではそれが単なる作品の特徴ではなく、多様性に対する中道的アプローチをもたらすための認識の出発点をなしている。トロールに対する偏見と解消を描きつつも、闇雲に聖人化することは避け、相容れないところを踏まえた上で落としどころを探る。
シーズン3では、前シーズンの共生という社会的テーマから打って変わって、ヒルダの家族(家系)に焦点が絞られている。興味深いのは、シーズン1で町に引っ越すのを嫌がっていたのはヒルダだったのに、最終話では母親がその立場になっているという逆転だ。全体を通じて唯一の良き大人だった母親が最後の最後に自分本位の願望を漏らし、それに対してヒルダは真っ向から異を唱える(シーズン2のような「反抗」ではなく)。児童向けのアニメながら、深い人間描写である。
ヒルダたちも年長に成長しており、特にデイビッドの変化は最初驚かされるが、残念ながら彼らを含めて周囲のキャラたちはそこまで目立たない。これは全8話とやや短いためだろう(但し最終話は約3話分)。いつものトリオに少々漂い始めた倦怠感や、新しい仲間の登場など、展開されないものの、彼らの今後について想像させる「余白」を残す作りとなっている……と好意的に受け止めることもできる。