おすすめされて鑑賞した。理由を提示しない作風がよい。大半のお話はギンコがピンチの人々や村を救済していくという、いわゆるヒーローものっぽさがある。他方で、偶然性や脆弱性と呼ばれるものを物語の根底に敷いており、暗黙的に主人公が世界のコントロール権を握っているというヒーローものにありがちな全能感は無かった。
蟲とヒトの関係は、病とヒトの関係に見えなくもない。知恵のあるヒトが蟲から逃れる術を身に着ければよいのだという論理は、病にも通ずるところがあるかもしれない。ただ、蟲とヒトとはそれぞれがただあるだけ、という存在理由が与えられる世界観に対して、病の概念はヒトという存在に全面的に依拠している。その点で、完全に並列関係として語ることはできないだろうと思われた。
個人的にギンコのキャラはあまり好きではない。やれやれ系主人公。超達観しているアラサー。好きになれない理由は、深みがないからというか、面白味がないからというか…何なのでしょうね。暗い過去をもつ人物がミステリアスな雰囲気を纏うかといえば決してそうではない。現実においても、いっつもニコニコしているおじいちゃんは壮絶な遭難事件の生き残りでした、とかあるじゃない。それにギンコは己の過去を知らないのだから、過去を引きずっているかのような人物造形は人格が一貫され過ぎていて、かえって不自然でした。とまあ書いたものの、ギンコがあのようなキャラだったからこそこの漫画は人気になったのだろうとも思われるので、別にいいです。
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【第1話】静かでよい。理屈がないのがまたよい。
【2話】二つ目の瞼、という発想が恐ろしい。一つ目の瞼を閉じても瞼の裏が見えているに過ぎない。もう一枚瞼を閉じると、本物の闇が見える。でも、闇を見つめすぎると目玉を持っていかれてしまう。
【3話】理由はない。そういうものだから、という説明のみ。
【4話】辻褄はない。枕は魂を留め置く場で、人は魂を留め置く場で夢を見る。魂を留め置く場を失えば、夢を見ることも無く、魂がストンと抜け落ちてしまう。
【5話】人身御供。何故娘が助かったのかは不明。
【6話】ヤレヤレ系主人公。こういう人物造形が流行っていたね。/領主が殺された理由がよく分からない。/実存主義者ならば怒りそうな結末である。
【7話】目的を持たないが、影響は与えていく生き物。
【8話】このお話の男は相当な酷い人である。駆け落ちを仕切っておきながら、妻に「戻りたければ戻れ」なんてさあ。妻は夫のそんな気まぐれ発言を間に受けて、あちら側に行ってしまったということか。ギンコはよくこの男を助けたね。
【9話】なぜ歯なのか。不可解だがそれでよい。こんなにあっさりした不老不死エンドは見たことがない。/個人的に、ギンコ達の「〜なんざ」のという言葉回しが、少し鳥肌が立つくらいには苦手。昔、ちょっとテンションが苦手だった、腐女子オタクさん達の言葉遣いだからかもしれない(銀魂とか好きな人達(偏見))。
【10話】確かに墨からは冷たい匂いがする。そういえば私は硯を擦ったことがない。
【11話】最初の穴はなんだったの?/人間の意思の強さを感じるお話なので、とても好き。単行本最終話の結末がどういうことであったのかの理解が追いついた。
【12話】ヨキの頃の記憶がないのであれば、ギンコは自分の運命に気がついていないことになる?なんとなく悟ってはいそうだけども。
【13話】人の生き方の身勝手さと脆さのお話。/蟲の理屈は本当に謎。ひとつの谷を渡るためなぜ橋になるのか?風で飛ばされるとか、動物の移動に任せるとか、そういうことはしないのか。しかも、なぜ20年に一度?
【14話】気味の悪いお話。だけど好き。欲を言えば、バットエンドで終わって欲しかったな。
【15話】雪の中の春と雪の中の暖かい女の人を掛け合わせており、いつの間にか精気が抜かれているという解説からすると、色っぽいお話だよね、これ。昭和の歌謡曲にありがちな男女観を踏襲しており、めっちゃ湿っぽい。きっと画面外で2人は交わっている。/ギンコをどうやって引きずって持ち帰ったのか。
【16話】寝ることと記憶を失うことの関連が甚だ謎である。それでいい。/ある概念のみが思考と記憶からごっそり無くなるなんてことは、ありえるのだろうか。引出しの例が出ていたが、一つの引出しを取り除いたら、他の引出しもつられて出てしまい、あげく棚が変形するなり崩壊するなりしてしまうのではないか。
【17話】このお話は、何らかの対象が異常という状態に陥るお話ではなくて、単純に怪異談っぽさがある。だから好き。/開けたらもういない。誰も悪くない。/誤って閉じてしまった時の対処法はあるのだろうか。閉じたらその後は開けることが出来ない、だから虚さんが通った道、すなわち虚は、密室に通じているということになるのね。
【18話】スマホとかないもんね。
【19話】ヒトの世界における蟲の在り方とヒトの世界におけるヒトの在り方との違いが分かるお話。
【20話】同じもの背負っちゃってます系の二人。
【21話】人の愛情に寄生する、タチの悪い蟲。
【22話】うみなおされた人がかつての人と姿が同じなら、返って差異が際立たないのかな。同じに見えるのに同じではないことを痛感して、周囲の人は悲しくなる。このように考えることもできるはず。(☜これが通常よくあるお話で、そういうお話にはしなかったとも言えるかも)
【23話】冬にその格好は…寒くないのかな。
【24話】結論を急ぐとろくなことが無いという教えか。/ギンコと女蟲師の対決にも見える。ギンコは基本的に負けることがない。
【25話】んー?つまり、誰もこんな目にあわせたくないという女の望みは初めから叶わないことが確定していたということ?それでも女は自分のために行動しようと意志できた。全知であることに比べたら知らない方が幸せなのかもしれず、むしろ無知だからこそ希望を捨てずに行為できるとも言える(決定論的世界で「無知は力なり」という格言が強い意味をもっていた映画『TENET』を思い出した)
【26話】噴火は生命の源という印象があるので、噴火の前に光脈筋が移動するという事態を飲み込めなかった。でもまあ荒廃はするから…。