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【推しの子】の雑記猫のレビュー・感想・評価

【推しの子】(2023年製作のアニメ)
4.3
 産婦人科医の雨宮吾郎は何者かに殺害され、自身が主治医を努めていたアイドル・星野アイの息子・アクアとして転生する。アイの息子として幸せな日々を送っていたアクアだが、何者かの手引きによりアイは殺害される。アイの殺害を手引した人物が、自身もその正体を知らない実の父親であることに気付いたアクアは、その正体を探るため、芸能界へと足を踏み入れる。


 復讐劇+芸能界の裏事情+アイドル+転生ものというかなり要素の多い本作。この要素の多さがゆえに、普通であれば作品の中核に置かれていてもおかしくない「転生」という設定が脇に置かれているのが面白い。ただ、これらの複数の要素が有機的に結合しているかと言われると案外そうでもない。主人公のアクアは母親殺しの犯人であり、芸能関係者であろうと推測される実の父親を探すために、自身も芸能界で活動を行うが、なにせ父親の手がかりが無さすぎるがゆえに、彼の芸能活動は父親探しとはなかなか結びつかない。また、もうひとりの主人公でもうひとりの転生者でもあるアクアの妹・ルビーのアイドル活動が本作のもう1本の軸となっているが、彼女の物語とアクアの物語は両者の情報が共有されていないのもあって、かなりの部分でそれぞれ独立して進行していく。このように、ちょっとのことで空中分解してしまいそうな要素群で構成されている作品なのだが、本作は要所要所でショッキングな展開を挟みつつ、個性の強いキャラクターの魅力で物語を推進することで、これらの要素を奇跡的に束ねて魅力的な1本の物語に仕上げている。


 特に定期的に物語に投下されるスキャンダラスな衝撃展開のチョイスのセンスが非常に良く、加熱するアイドルの誹謗中傷、キャスティングありきの雑な漫画実写化、恋愛リアリティショーが原因の自殺騒動など、絶妙に現実でSNSをざわつかせる題材が並んでいる。本作はこれらの題材をリアリティのある(ように見える)芸能界の裏側を絡めながら描き出すことで、物語をスリリングなものにしている。また、本作は芸能界の汚い裏事情を描きながら、このような事態を生み出している原因の一つは、無責任に勝手なことばかり発信する一人一人の一般人であるということも同時に描いている。この背徳的なスリルを安全圏から楽しんでいる最中に、不意に視聴者の痛いところを突き刺してくるような抜け目なさが、作品への吸引力を高めていると言えるだろう。ストーリー自体はまだ途中も途中で、2期以降どう着陸するかまでは評価しがたいところだが、スキャンダラスな展開でグイグイと興味を引くストーリーテリングのおかげで、次作の展開への期待は非常に高まっている。
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