思い返すと第1話が最もボルテージが上がった。隣の席のアーリャ(cv:上坂すみれ)が挑発してくる「ツン」にあたるシチュエーション。そして、主人公である久世政近(cv: 天﨑滉平)が不真面目な一面とは打って変わって時々見せる頼もしさにロシア語でボソッと「デレ」る、アーリャが政近を焦らし、焦らされるという受けにも攻めにも回れる2人のデュオが、学園ワンシチュエーションモノにはなかった楽しさであった。
これに加えて、クール初めで多くの人が今後の視聴するか否かを決める第1話で『学園天国』、第2話以降で『可愛くてごめん』『晴れハレユカイ』といった昭和、平成、令和を代表するラブソングを上坂すみれがカバーする、毎話変わるエンディング曲も視聴を続ける大きな動機になっていた。
しかし、本編が生徒会選挙編へと突入すると徐々に失速を始める。
まず、アーリャがだんだんロシア語でデレなくなる。というよりも、デレることができなくなるといったほうが適切だろう。アーリャがロシア語でデレる際に、画面には日本語字幕が表示される。これはロシア語がわからない「フリ」をしているだけの政近の視点、つまりこのシチュエーションは2人がマンツーマン、もしくは至近距離で会話をすることで成立する。生徒会長選挙編においてはアーリャが大衆に話しかけるというケースが否応なしに増えるため、「デレ」を封印せざるを得なくなるのだ。『かぐや様は告らせたい』『からかい上手の高木さん』ような身内でのみ成立するワンシチュエーションモノで、学生議会や、演説といった「大衆」の描写の多さに退屈してしまった。
また、政近がアーリャ(ヒロイン)を支えるというマッチョイズムが後半になるにつれて露骨になる。本作の序盤では頼りないオタク気質の主人公が、隣の席の高嶺の花である女子生徒に絡まれるという非日常感に憧れを抱いていたのだが、主人公がかつては優等生で、しかも名家の出身、父は官僚、母は令嬢で離婚している、というエリート家系という設定が明かされてからは上流階級の遊戯にしか見えなくなってしまった。これは1話で期待したものとは程遠い。特に、大衆の前で政近が演説する姿はいたたまれない気持ちになった。もう少しヒロインをデレさせてほしい、そんなアニメだった。
毎回変わるEDはかなり楽しませてもらった。