もこもも

昭和元禄落語心中のもこもものレビュー・感想・評価

昭和元禄落語心中(2016年製作のアニメ)
4.8
"落語を巡る愛憎劇に高座の巧みな描写を織り交ぜた心温まる人情物語"

舞台は昭和50年代の東京
刑務所帰りの元ヤクザ・与太郎と
八代目遊楽亭八雲の出会いから始まる
魅力的なキャラクター、時代背景や人間の描写、
骨太で奥深いストーリー、声優の圧倒的演技力、
アニメだからこそできる表現手法、
心情を掻き立てる挿入歌を含めた楽曲など
あまりにも素晴らしい魅力に溢れている
ここまで素晴らしい人情物語、
ここまで内容が深いアニメ作品と
出会えたことにただただ感謝

作品のテーマは「落語」と「人生」

⚫︎落語
声、表情、動きの違いでこんなにも人が変わったみたいに演じ分けができるるのかと感銘を受けた
『野ざらし』『居残り佐平次』『寿限無』など作中の演目の中でも特に印象的な演目を綴っていく

『出来心』
1期1話で与太郎が行った演目
自分の人生で初めての落語をアニメで観るとは...
落語の面白さだけじゃなく、お客さんみんなが笑うその雰囲気も素敵やなぁって感じた

『死神』
作中では1番語られた演目やけどその中でも7代目の死後、「本当の1人になっちまった」からの死神は鬼気迫っていて、神がかってたとしか言葉が出ない

『芝浜』
愛媛の旅館で演じた助六最後の演目
1番好きな演目で夫婦の愛に温かくなる人情噺
ストーリーが理解しやすいこともそうやけど、これまでの助六の背景があるからこそこんなに感動させられた
「よそう。また、夢になるといけねえ」


⚫︎人生
八代目有楽亭八雲の70年以上の人生を軸に登場人物の成長や老いが丁寧に描いている
人の想いはいつまでもいろんな形で紡がれていくことに感慨深さを感じた

<菊比子時代(八雲と助六編)>
時代背景を交えながら描かれる菊比古と助六の成長や友情、みよ吉が絡む愛情劇が最高に面白くて、回を重ねる毎にのめり込んでしまった

「誰のためでもなくてめぇのために
 他人と比べるのでなく自分の落語をする」

菊比古の葛藤、変化、成長に感情移入してしまう
菊比子と助六の関係が本当に素敵
タイプは違うけど最高の相棒で、落語への熱意と野望を語り合ってる姿は胸にきた

「世の中に溢れかえってる娯楽の中で
 落語がちゃんと生き残る道を
 作ってやりてぇんだよ」

助六がしばしば語っていたことやけど、落語の本質とこれからの世の中を見抜いて行動しようとする2人の想いに胸が踊らされた
そんな想いを抱いていたからこそ助六が落語から離れた時の菊比古のつらさ、悲しさは言葉で表せるようなものじゃないんやろうな

「必要だからだ お前さんの落語が
 子供のうちからずっと側で聞かされて
 真似して目指して 出来なくて諦めて
 羨ましくて羨ましくて
 嫉妬で焦がれたこともあった
 大嫌いになって否定したこともあった
 けどある時ふっと大好きなこともあった
 辛いことがあったら
 お前さんの落語が聴きたくなった
 良いのも悪いのもあらゆる情を
 お前さんの落語から貰ったんだ
 だから無くなったら困るんだよ
 私の落語の為に」

助六との再会が感動的で菊比古の笑顔に心が洗われたし、嬉しさを抑えられなかった
助六の存在がどれだけ菊比古にとって大切なものであるかを感じて感動した
これからまた菊比古と助六の落語が見れると思った矢先に訪れる悲劇には言葉が出ず、菊比古の人生を大きく変えていくことになった

<八雲時代(助六再び編)>
「落語は共感を得るための芸です
 笑わせるだけのもんじゃない
 共感は時代では変わらない」

真打になった与太郎の成長とこれまでの努力も、八雲に対する尊敬と好きという気持ちもしっかり伝わってくる

「人っていうのは全て分かり合えるわけがない
 それでも人は共に暮らす
 取るに足らないせんないことを
 ただ分け合うのが好きな生き物なんだ
 だから人は1人にならないんじゃないか」

時の流れと共に菊比古の成長も老化も感じる
ただ、変わっていくものばかりではなく変わらない人の想いをしっかり描いているところが素晴らしい
墓場で助六に訴えかける叫びには胸が震えた

もし助六が生きていたら...
そんな思いが胸から込み上げる
菊比古と小夏の人生がどれほど輝いたのだろう
落語界がどう変貌していったんだろう
そんな考えが止まらなかった

「人の情ってのは拭っても拭っても
 纏わりついてきやがる
 死んじまうにはこの世はあまりに愛おしい」

1人になりたいのに1人になりきれないところも、八雲がずっと願っていた落語と心中することもできなかったのではなく結局八雲が望まなかったというところも八雲の人間味が出てて人情物の良さが出てる

八雲が亡くなってからの死後の世界
若くなり菊比古の頃に戻った八雲と助六のやりとりにも、みよ吉さんが小夏のことを愛していたことも嬉しさが込み上げた
助六に立派に八代目を務め上げたじゃないかと言われたところも嬉しかったやろうなぁ
三途の川での別れもただただ感動した

八雲が亡くなってから17年後を描いた最終回
信之助の本当の父について、これで死後の世界に信之助が呼ばれた理由も分かった気がした
ただ真実がどうのというのは野暮な話で、信之助が八雲のことを大好きなところが嬉しい
助六が八雲を継いだことも八雲を継いで最初の演目に『死神』をやるところも感慨深い
人の想いってのは拭っても付き纏ってくるもので、絶やそうとしても紡がれていくもの
そこが人の世の美しさなんだと
最終話のEDは涙が溢れた

この作品は内容だけでなく、曲も素晴らしい
OPは1期も2期も林檎嬢が楽曲提供を行い、林原めぐみさんが歌を担当している
独自性といい、色気といい、表現力といい、ほんと椎名林檎のファンとしては堪らない
1期OPはみよ吉のすべてを表現した『薄ら氷心中』
哀愁と色っぽくてしっとりした感じが堪らないし、こんなに美しくて粋なOPは観たことがなかった
八雲を表現した2期のOPはアニメーションも含めて1期を超えるほどに好き
八雲が1人になりたいという想いも、苦しい過去も、消えない助六に対する想いも、その全部を映像と曲で表現していて、それが胸に突き刺さった
2気の5話だけOPの助六の目が赤くて、5話を見終えたときは鳥肌がたった
EDは1期も2期も歌はないのにすごく素敵
時の流れから来る哀愁、人の想いの繋ぎ、過去の栄光も未来の希望も感じる素晴らしいEDだった

「おいら落語がなくなるなんざ
 一片も考えたことはねぇんだい
 だってよ...
 こんないいもんがなくなるわけねぇべ」

⚫︎1期
OP : 林原めぐみ『薄ら氷心中』
ED : 澁江夏奈『かは、たれどき』
⚫︎2期
OP : 林原めぐみ『今際の死神』
ED : 澁江夏奈『ひこばゆる』
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