漫画の神様手塚治虫先生による畢生作品『火の鳥』の『望郷編』のアニメ版。『黎明編』、『未来編』、『大和編』、『鳳凰編』、『復活編』、『羽衣編』、『宇宙編』、『異形編』、『太陽編』などがアニメ化された中では最後発となります。理由としては恐らくはキリスト教におけるアダムとイブの始まり(子どもたちの名前が聖書と同じ)から近親相姦をテーマにしているためでしょう。そのためか本作ではその辺りが大幅にカットというか改変されておりロミの苦労する女神ぶりが減少した感もあります。まあ馬鹿正直に描いていたら昨今の風潮で叩かれていた可能性もあるので正解と言える改変かもしれません。歳を重ねて貫禄が出たロミのリアリティは原作よりも上だったと思います。結末については原作のみを知っている方にも見ていただきたいところで絶望と希望の混在した原作とは異なる味わいとなっていました。
さて『望郷編』といえば牧村。『宇宙編』で登場する極悪宇宙飛行士で時系列的に言えば『望郷編』の方が先。アニメ版『宇宙編』とまるで時代と制作会社による絵柄が違うので仕方ないですが違う世界線のように見えるので残念なところ。牧村は心の弱さと悪さとスケベさと少しの人情のある誠に人間臭い日本人という手塚先生の大人作品では欠かせないキャラといえましょう。原作の方ではブラックジャックの転生した人が出てきましたがこちらもカット。
あとこれはわざとなのか演技なのか分かりませんがジョージの声が棒読みに聞こえてくるところ。観た人を原作へ帰らせたくなるという意味での『望郷編』だとしたら制作陣の目論見はさすがといえましょう。