たわらさん

響け!ユーフォニアムのたわらさんのレビュー・感想・評価

響け!ユーフォニアム(2015年製作のアニメ)
5.0
本気でやることの痛みをここまで真剣に取り組んだ作品も珍しい。この鬱々しさはアニメーションであるから軽減されているほど。この生々しさは登場人物の培ってきた経験則と思考の不和から生まれてたものであり、不協和音から始まった吹部が"合奏"としてまとまっていく様が美しい。

黄前久美子というキャラが面白く、主体性もなく保守的かつネガティブなキャラなんですよね。何をもって主人公にするかは難しいですが、牽引力もカリスマ性、特筆した才能を持ち合わせていることない久美子は群像劇の1キャラでしかないんですが、フラットな目線で北宇治の吹部を観測していく一種な語り手でもあります。

勿論彼女自身の物語も進行しており、高校で新生活を築きたいという"なんとなく"のフワッとした変化への挑戦から、"本気"でユーフォニアムを上手くなりたいと挑戦する心境の揺れ動きの流れは素晴らしい。

黄前久美子は主体性は無いんですが、やりたく無いことや聞きたい事への線引きを越えたら突き通す我の強さはあるんですよね。約束事も含めて建前を使えば良いものも本音でしか喋れないので、高坂麗奈やあすかは久美子の前だと本音を出せるのだと思います。

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側から見たら大人びて見える冷静沈着で合理的な黄前久美子が心の奥底に抱える情熱を高坂麗奈と出会う事で引き出していくストーリーラインのグラデーションは見事。対する高坂が黄前に対して惹かれるのが合理性であり、各々の足りないところが補う超リアリストと超ロマンチストの出会いの物語なんですよね。最低限の社会性を持ち合わせつつも外れ者(月)にある2人だけが通じ合える黄前と高坂の関係性は良いなと思います。

他にも久美子と田中あすかの類似点、高坂麗奈から見る久美子と滝先生の類似点、山田尚子が潜んだメタファーの数々と言及できる点が多く、魅力に溢れた作品です。
たわらさん

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