ウシュアイア

orangeのウシュアイアのレビュー・感想・評価

orange(2016年製作のアニメ)
3.8
高校2年の始業式の日、高宮菜穂は10年後の未来の自分から、転校生の翔にまつわる悲劇的な未来の出来事への後悔の念とその回避のためにすべきことが綴られた手紙を受け取り、仲間の須和、貴子、あずさ、萩田の仲間とともに最悪の出来事を阻止に向けて行動する、というSF青春ラブロマンス。

序盤で分かることだが、悲劇的な未来とは翔の自死であり、自死に関する表現があることから視聴に注意が必要。友人・恋人を失った人たちの無念、後悔の視点と仲間の自死という未来と向き合うことを通じて命の尊さを伝えるメッセージ性をもった重めの作品。翔の自死という世界線の収束の圧力が強く、そうしたことからも命の重みを考えさせられる。納得いかない部分もあるかもしれないが、老若男女問わず共感できる部分は多いと思う。


以下、ネタバレあり。




ネタバレなしのところでは持ち上げたが、いろいろと納得がいかない。

まず、未来の菜穂は高校生の時に翔に恋愛感情を抱くが、現在の時間軸では翔に出会う前に翔の未来についての手紙を受け取っており、憐憫の情が恋愛感情に先行してしまっており、(つまり、好きだから死んでほしくないではなく、死んでほしくないが先になっている)菜穂と翔の間にはもはやラブストーリーとはほぼ成立していない。目の前の相手が自死する未来を知ったら、純粋な恋愛感情にはなりにくいのは何となくわかるだろう。

そもそも自殺念慮に駆られている思春期の男子高校生が、自分の気持ちを上手に伝えることができない女子高校生と恋愛なんてストレスフルな上に危険極まりなく、菜穂一人で手に負える話ではない。恋愛によって自死を回避するというファンタジーに走らずに、菜穂、須和、貴子、あずさ、萩田とのほわほわな関係に落とし込んだのは現実的であった。むしろ、菜穂から手を引いたりした須和なくして翔の自死が確定の世界線収束範囲(アトラクタフィールド)からの跳躍はありえなかった。感情表現が未熟な高校生同士の恋愛は危うく、実は友情>恋愛がテーマになっていたように思える。

それだけに翔の生存している新しい世界線において菜穂と翔に改めて恋愛感情をもちこむ必要はない。以前の世界線では菜穂と須和は翔に無念の思いを残して結ばれてしまっており、その世界線の一児がいる菜穂と須和の未来の否定はかなり残酷だ。新しい世界線では、菜穂にとって翔は友人として生きているだけで尊い存在で十分だと思う。
ウシュアイア

ウシュアイア