ウシュアイア

四月は君の嘘のウシュアイアのレビュー・感想・評価

四月は君の嘘(2014年製作のアニメ)
4.8
届くかな 届くといいな

心に深い闇を抱えピアノが弾けなくなってしまった中学2年の天才ピアニスト有馬公生が、幼馴染で親友・渡亮太に想いを寄せる同級生の破天荒なバイオリニスト・宮園かをりに恋をし、ピアニストとして再生していくアート系ラブストーリー。

基本軸は公生のかをりとのラブストーリーとピアニストとしての再起の物語だが、それだけではない。親友・渡と公生の幼なじみでずっとそばにいた椿を交えた二つの三角関係で揺れる恋愛感情の機微が丁寧に描かれる。また、公生の背中を追いかけていた相座武士と井川絵見と激しく競い合うことで互いに高め合い、時に支え合う熱い切磋琢磨も見どころで、単なるラブロマンス作品にとどまらずアート系スポ根的な要素もある。どちらか片方だけの要素ではありきたりだが、登場人物に無駄なく全員がきちんと機能して一つの物語となっており、公生の亡くなった母への思い、かをりへの思いだけでなく、武士や絵見の音楽への情熱をアーティストとして自分の思いを演奏に託す音楽作品でもあることから、毎回激しく感情をかき回された。

特に武士や絵見とのライバル関係は、お互いの思いは言葉を交わさずとも演奏で伝わり、またライバルでいるからこそ孤独ではなく時に支えられる関係性はスポーツ作品を含めた作品に類を見ない熱さがあったと思う。

ただし、公生の抱える闇はとても深く、観ている側にもトラウマになるレベル。だからこそ、かをり、椿、渡、武士、絵見が支えになってくるのだが。

余談だが公生と渡は『鬼滅の刃 遊郭編』で死闘を繰り広げたことを考えると、声優さんの演技は本当に凄い。

主人公の属性などから話として一番近い『三月のライオン』(羽海野チカ)、幼なじみの椿との関係性に注目するのであれば『クロスゲーム』(あだち充)、エモーショナルなストーリーの濃厚さで言うなら『BANANA FISH』(吉田秋生)、といった作品が好きだった人は相性がいい作品だと思う。

ノイタミナの名作ということでClip!したものの、キービジュアルが名作と言われながらも苦手だった『ハチクロ』っぽかったので放置していたが、4月ということで観てみたら、想像以上に良い作品だった。是非、4月におすすめの作品。

音楽モノは結構好きなので今季は『青のオーケストラ』に注目している。

以上、観ていない人向け。



以下、ネタバレありの観た人向け。


ネタバレになるのかならないのか微妙なところでストーリーの序盤から示唆があり、中盤にははっきりするのはヒロインかをりの難病により本筋が『君の膵臓が食べたい』っぽいのだが、陳腐に陥らなかったのは渡と椿の丁寧な心理描写と武士と絵見の存在。未見だが武士と絵見が登場しない実写映画の評判が芳しくないのは、キミスイやセカチューのような話になってしまったからではないだろうか。

また観ていてかをりの難病が明らかになり公生と渡との関係性から中学の国語の教科書に載っていた『いちご同盟』(三田誠広)っぽいなと思ったが、作中でかをりと公生が読んでおり、『いちご同盟』を読んでいない人には何が何だか分からないが、かをりが登場人物に自分を重ねてセリフを引用したり、小説の展開を踏まえて返しているのには思わず痺れた。そういう部分でも細かい部分にも見どころが多かった。

ほぼ一気見できたとはいえ、激しく感情を揺さぶられるので二周目は少ししんどい。
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