妖怪系の推理モノかと思ったら、まさかの鋼人七瀬編で最後まで駆け抜けた。
タイトルのわりに推理してないし、死んだら未来決定する不死身の存在の設定とかいろいろ文句はあるが、とにかくこの作品を評価したいのは「後期クイーン的問題」に真っ向から向き合ったためである。
「後期クイーン的問題」とは、探偵の明かした真実が真実であることを保証できないことを指摘したものであり、読者への挑戦が行われたエラリー・クイーンの一連の小説において投げかけられたもの。まあ簡単に言えば探偵がありえない可能性を消していって最も妥当なものを最終解とするものの、そのありえない可能性や偶然を排除することの正当性が担保されない、って感じですか?ちゃんと知りたい人は法月綸太郎か笠井潔の本を読んでください。
個人的にコレへの回答として舞城王太郎『ディスコ探偵水曜日』がベストだと感じていました。超次元に話を飛ばして理の段階まで見せる展開にすることで正当性を保証するするものだった。ライアン・ジョンソン監督の『ナイブズ・アウト』も嘘をつくと吐く、という要素でその正当性を担保しようとしていたが、その行為自体がアンダーコントロールで作為されている可能性は言及されず、不十分だった。
今作では、真実かどうかはどうでもよく、大衆が(小説においては読み手が)納得すればよい、という回答であり、真実かどうかの事実確認よりも虚構の信頼性を重要視したロジックを重視。その為に多重解決を用いる構造で、個人による多重解決のパターンの中ではかなり良かったと思います(なお多重解決は『ディスコ探偵水曜日』でも用いられている)。 その上で、妖怪という超自然の存在を神視点におくことで、鋼人七瀬の存在自体=真実は真実で提示しておくというフェアな作り。また、主人公コンビが互いに嘘をついている可能性も恋愛要素の導入でまあ無いだろう、という風に見せるのが上手い。なるほど、お上手である。
まあそうは言ってもこのコンビでのもっと日常系の謎も見たいです…。