ウシュアイア

MIX Season 1のウシュアイアのレビュー・感想・評価

MIX Season 1(2019年製作のアニメ)
3.4
名作『タッチ』で主人公・上杉達也の活躍により初の甲子園を優勝を果たしたものの、その後30年勝利から遠ざかっていた明青学園高等部野球部に入部した血のつながらない兄弟凄腕バッテリーの物語。第1シーズン24話では、中等部から高校1年の夏までのお話。

この作品を観る上で外せないポイントは
・『タッチ』のタイムラインの30年後という設定の是非
・梶裕貴、内田雄馬、内田真礼、花澤香菜というキャスティングの是非
に集約されると思う。

まず、本作品の原作者の前作『クロスゲーム』は主人公コウとヒロイン青葉が切磋琢磨し、二人にとって最愛である亡き若葉の夢を叶えることで若葉の死を乗り越える話だったので、ライバルたちにはあまり目もくれず、自分自身と向き合う野球だったこともあり、野球の展開としては盛り上がりに欠けていた。一方本作は、明青学園に再びの栄光を、スローガンに並み居る強豪を攻略していく話なので、特に夏の西東京大会の強豪校との対戦では、相手チームの選手も個性的で、手に汗る試合展開ということもあって、野球の作品としては面白みがあった。

同好会から部を立ち上げた『H2』や弱小チームから勝ち上がった『クロスゲーム』の設定は背負うものがないために、比較的主人公とそのチームメイトたちの好きなように野球ができていたのに対し、本作は勝利から遠のいた名門校?という設定は、作中でもOBでもある主人公たちの父のセリフにもあるように主人公たちは「OBたちの無念と期待」を背負わされてしまっている。さらに『タッチ』のタイムライン上の話ということで、『タッチ』のリアタイ読者だったおじさん・おばさん(自分もどちらかというとこちらに近いが)にとっては出てくる大人に感情移入しやすい仕掛けではあるが、登場人物に近い世代にとっては窮屈さや鬱陶しさを感じてしまうのではないだろうか。親世代の自分が果たせなかった夢やノスタルジーを子に背負わせるのは大人のエゴではないだろうか。

実際、主人公の一人は大人世代のそうした期待に不快感を示す健全さが垣間見えるシーンもあり、原作者や制作陣も『タッチ』を背負わせることの罪深さは感じているんだろうが、それでも押し切ってしまっているところを見ると、『タッチ』世代のおじさんおばさん向け作品なのかもしれない。

『クロスゲーム』では試合に出られなくても男子に混ざって硬式野球部で練習するという時代に合わせたヒロインに進化したにも関わらず、ヒロインは新体操部兼マネージャーに戻ってしまっている。何で戻してしまったんだろう?

そして、この作品のキャスティングの是非。『タッチ』世代向けに中尾隆聖さんが再登板しているのと同様に、もっと上の世代向けのキャスティングでいい。

そして何よりもこのキャスティングというか声優さんたちの演技があだち充先生の作品の空気感にあっていない。原作に描かれる感情の機微を表現する独特の間合いやカットが演出面で再現できておらず、過剰な演出により声優さんたちの演技も過剰になってしまっている。特に元々あざとさが出やすい梶さんと内田真礼さんの演技は拍車がかかっており、濃ゆい味付けになってしまっている。これは好みの問題かもしれないが。

一方で作画とキャラデザは原作よりも変化がつけられており、登場人物の魅力はうまく引き出せている気がする。

いろいろとちぐはぐさを感じた作品であった。
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