このレビューはネタバレを含みます
今作は春場ねぎの挑戦である。林間学校や修学旅行といった定番イベント、主人公とヒロインの過去の接点、ツンデレと鈍感の交錯から生まれる人間ドラマなど、既存のハーレムアニメの王道に則りながらも、そこに甘んじることなく丁寧な心情描写や風太郎の一貫した合理主義によってこの時代でも見やすく感情移入しやすい作りになっている。
春場ねぎが傑作と自負する花火大会の場面は叙情的で美しく、恋愛という命題の儚さと姉妹の絆の強さを象徴しているかのようだ。
林間学校のキャンプファイヤーにはありがちな都市伝説が存在する。こういうのはだいたい男女が結ばれる。そしてその瞬間、病に伏す風太郎の手をいや、指を握っていたのは五つ子全員だった。誰がどの指を握るのかを見ると、結末までの大筋も見えてくるであろう。
今作はラブコメという枠組みに囚われないヒューマニズムが春場ねぎの精緻な造形力とともに二次元を超越した奥行きを与えている。ラブコメへのアンチテーゼ。恋愛モノは心を描くヒューマンドラマ。だからこそありがちな展開ではなくその場に適したキャラクターの言動が重要になる。痛く滑稽ででも愛おしい。その先にある結末は刮目に価する。