Eike

DEVS/デヴスのEikeのネタバレレビュー・内容・結末

DEVS/デヴス(2020年製作のドラマ)
4.4

このレビューはネタバレを含みます

監督としてのデビュー作Ex Machinaで注目を集め、続くAnnihilationでもジャンル系の要素とシリアスなSF展開のミックスに手腕を見せたアレックス・ガーランドの最新作。
意外なことに今回は単発の映画ではなく全8エピソードからなるシリーズドラマとなっている。
何でも前作Annihilationについては劇場公開が見送られスタジオ側によってNetflixに売り飛ばされたことを知らされていなかったらしくショックを受けたらしい。
それならと開き直ったのか、今回はストリーミングメディア向けにチューンアップされた作品となっている。
コロナ禍で劇場で新作が公開できない状況下では完全にネット発のチャネルが作品制作の主舞台となっていることをあらためて印象付けている。
実際、メッセージ性の強い作品や本作の様に個性を前面に打ち出したような作品を制作することに大手の映画スタジオはもはや積極的ではなく、またネットワークTVでもオタク色の強い作品の製作は難しい訳で、結果としてストリーミングメディアがその受け皿となっているのだ。
特に今現在はNetflixを筆頭に同種のサービスが群雄割拠で鎬を削る状況にあって様々な作品が矢継ぎ早に登場している。

サンフランシスコ。IT界の巨人Amaya社は量子コンピューターの開発分野でも世界をリードしており、そのCEOフォレストは右腕の女性エンジニア、ケーティと共に広大な敷地の奥深くに作り上げた謎めいた建物を拠点に巨大プロジェクトを進めております。
二人はそこに各分野の精鋭たちを集め、そのDevs(開発機関)と呼ばれる施設にて極秘の研究を展開しております。
そのカギとなるのは量子コンピューターのポテンシャルを究極まで突き詰めた利用計画。
そんなある日、新たにAmayaのスタッフからDevsの研究員としてエンジニア、セルゲイが「昇格」。
しかしその日の夜、彼の遺体が敷地内で発見され、セキュリティカメラのデータから自殺として処理されます。
セルゲイの恋人で同じAmayaに暗号部門の職員として勤めるリリー・チャンは突然の恋人の死に衝撃を受けるのですがDevsの秘密主義に次第に疑いを持つように。
そしてかつての恋人でITセキュリティのプロ、ジェイミーの力を借りてセルゲイのスマホを解析することに成功。
そこから見えてきたのは彼がロシアの産業スパイであり、Devsの研究内容をターゲットとしていたという事実。
この事実にショックを受けながらもリリーは彼の死の真相を巡って次第にDevsの秘密に迫ることになるのだが思いもよらない運命が彼女を待ち受けていた…。

全8エピソードで各50分程度使えるという事で登場人物の掘り下げ、ミステリー、SF、サスペンスといったそれぞれのジャンルの描写にも融通が利く訳で、結果としてガーランド氏の力量が伝わる内容となっている。
ただ、序盤から半ばあたりまでは物語の全容が見えて来ずスローペースな印象である事は否めない。
全編にわたって極端にシリアスな雰囲気が強く、ユーモアが足りないこともあって、とっつきにくい印象なのだが中盤以降、俄然面白くなって来る辺りで連続ドラマの醍醐味を味合わせてくれる。
またサンフランシスコの特徴的なランドスケープを生かした風景の描写やミステリアスで時にメランコリックな音楽などプロダクションのクオリティは十分に高い。

興味深いのは本作の主演がSonoya Mizunoで彼女が扮する中国系の女性である点。
物語の核には天才ITエンジニアのフォレストとその右腕となるケィティーと白人の中年男女が据えられてはいるが、基本的にはリリーの行動に焦点が当てられている。
Sonoya MizunoはEx Machinaでもフィーチャーされていた日系の女優さんで今回が初の主役級の役どころ。
昨今、マイノリティの作品内での描写に関しては劇的な変化が続いていて、本作もヒロインが非白人である訳だが、かと言って殊更に彼女のエスニシティを強調している雰囲気は無い辺りもユニークな印象。
それでもリリーのベリーショートで時に中性的にも見える容姿にはかなり「異色感」もあってこのミステリアスなお話に特異性を与えている気がする。
もし、これが「普通の」白人の美人女優さんだと何となくチープなお話の印象で終わってしまったのではないかという気がするのだ。
その半面、ことさらに感情表現を強調しない彼女のアジア人っぽい演技に違和感を覚える方がいるのも事実であろう。

本作の核心部分はDevsの研究内容という事になるのだが、量子コンピューターの開発にまつわる陰謀ドラマというフォーマットは取っておらず、あくまで鍵となるのはテクノロジーが目指す物とは一体何かという事だ。
本作においてフォレストは最愛の家族を交通事故によって眼前で奪われる悲劇をこうむっており、結果として現実世界を否定し別の世界線の存在を模索していく。
そして最終的にはその世界に意識を移植することに成功する。彼(とケィティー)の判断により巻き添えを食う形で犠牲となったリリーも又同じ世界に「蘇生する」ことが許される。
もちろん、その世界は「現実」ではない。
しかし「現実」が決定論で構築されたものですべてが予見可能となるならこのシミュレーション世界における主観環境と何が違うというのか、というのが本作のエンディングだと思うのだが、要するにこれって「Matrix」だよね。
だとすれば人間にとってテクノロジーの最終形は「仮想現実」への意識移植の実現ということなのか。
究極の形は一人一人に異なるデザイナーズワールドが提供されるということなのだろうか。
人にとって何もかもが思い通りになることが「幸福」に繋がることなのかという問いに対しては疑問は残るが、人の「欲望」に限度が無い事を考えるとそれも一つの「解」なのかもしれない。
Metaverseの展開がどういった形で進むのか見えてこない点もある2021年、なんとも刺激的なドラマでした。
Eike

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