えぬ

私たち、家族です~My Unfamiliar Family~のえぬのレビュー・感想・評価

2.0
tvNのウェルメイド・ヒューマンドラマは「マイディアミスター」「未生」「ライブ」「刑務所のルールブック」「ブラックドッグ」などなど挙げればキリがないほど名作が多くてすごく好きで、勝手にそういう一大ジャンルと個人的には思ってるのですが、これは期待外れ&リタイヤがちらつくような苦戦続きでした。

家族全員が明かせないような衝撃的な隠し事があるという設定をたった16話でウェルメイドっぽくやるのはさすがに無理があったのでは?このドラマでは、現代社会で思いつく家族にまつわるトラブル・問題・現象なんかを、どれもこれも…的に無理矢理にまで一家族に詰め込みすぎ。しかも、韓ドラでよくある記憶喪失・出生の秘密・交通事故・重病も見飽きてるどころじゃないし、また最近やたらと扱われ始めたLGBTネタなんかも他のドラマで既にさんざん見尽くしちゃった上に、内容的にも凡庸で、このドラマならでは…みたいな描き方も展開も特になかったし。

ある事件をきっかけに家族のメンバーそれぞれにあれこれ大変なことが起こって…というのは長編ホームドラマさながらな構造なのだけど、この尺で家族5人分(プラスキム・ジソクの分で、計6人分)思いもよらないビックリな出来事をかき集めれば、どうしても不自然にドタバタ続きみたいな印象になりやすい気がする。地上波の週末ドラマのようなホームドラマ枠では50話とかかけてやるから息つく暇があったり、心にグッとくるような名セリフ山ほど盛り込んで奇想天外な内容同士をつないだり、複数のカップル分の楽しい恋愛エピソードをじっくり描くというようなことを交えたりして、緩急つけてやるから飽きずに見れてられるし、何よりも両親の尽きない愛情とどっしりとした存在感が物語の土台となって、しっかりと引っ張っていってくれる良さが大きいので、どこかハチャメチャでも子供たちが危うそうでも安心して見ていられる。けど、このドラマはウェルメイド仕立てにしてしまったせいもあってか、ずっと同じような雰囲気&シリアスチックな緊張感を崩せないことが半ば制約となってしまってたり、16話では詰め込み&駆け足でやるしかなく、余韻を味わう暇も少なかった。このドラマの両親は二人とも根は悪い人たちではないにせよ情けないどころではない、あまりにダメなところがありすぎで、そんな状態で家族全員分あり得ないことだらけが一気に次々と炸裂していって…という展開だと、さすがに現実離れしすぎだし不自然でしんどい。ドラマなので現実離れしていてもファンタジーでも作り話なので何でもアリではあるけど、納得できる感とか蓋然性とかリアルさがなければ、気分的についてけない感が出たり、いちいち微細な反発感とかが全体通して生じてしまって、没頭しきれなかったり楽しむのは難しくなるとでもいうか。

で、そこをきれいな映像や音楽でハイクオリティさを前面に出し、抜群の演技力を持つ演技派女優をヒロイン&ストーリーの語り手に据え、キム・ジソクも好青年役で魅せまくって…と頑張ったのだろうとは思う。でも、それでも突拍子もないことがこうも続くと「またか…」という気分で飽きてくるし、最後の末っ子弟の秘密のエピソードでは「もうこういうのお腹イッパイ」とうんざりしてしまった。そのエピソード自体、それまでの他の家族のものと比べてもショボくてつまらなかったし、別にご丁寧に全員分のネガティブな秘密まで無理に作らなくてもいいと思うのだけど。こういうストーリーの構造上、最後にビックリを炸裂させないで終わらせるとダラダラ尻すぼみになってうまく締めくくれなくなってしまうから…という制作側の都合が透けて見えてしまった気分というか。どうせここまであり得ない続きなんだったら、私は最後くらいはキレイゴトな話だとしても、逆に思いがけないような良エピソードで感動的に締めくくってほしかったなと思いました。その方がスッキリ爽やかだったのでは?

で、最後の末っ子弟のエピソードでは家族をないがしろにするような行動をとったところに、母親がご立腹で説教しだしたりするんだけど「え、よりによって、あなたが偉そうにそれを言うの…?」的に呆れました。末っ子くんの立場なら、家族を大事にしない言動もしょうがない部分も大いにあるように思うので。物心ついたころには両親は完全に不仲で冷え切っていて(実はそれどころではない)、長女は若くして一家の稼ぎ頭と化し、幼少時はまだ学生の二番目の姉とその親友が面倒見てたとか、これではやはり真っ当で温かな家庭とはいいがたい。家族の基盤は夫婦仲の良さと互いへの信頼が一番最初に来るべきなのでは。家族関係の良くない家庭で育てば、たとえそれが悪気がなかった・仕方ない部分もあった結果だとしても、家族を大事にしろ・他人へリスペクトや愛情を持て・大人の男性としての責任感を持って真っ当に育てという方が無理があると思う。それらを親から十分に与えられてないし、男の子は特に父親の存在がすごく大事なのに一番の見本となるべき父親は不在がちで身近にいない上に更にその上…ということでは、学び取りようがない。なので、その一番の責任と原因がある母親が偉そうにプリプリ怒りだすところで、私はすっかり白けてしまいました。そもそも誰のせいでこうなってるんだ、自分の件が片付いたら自分の罪や過ちはすっかり忘れてなかったことにすらして上から目線な態度でいいのか…って。そこは親として、どうして子供がこうなってしまったのかをよくよく考え、大いに悔やんで反省し、子供に申しわけなかったと痛み入るところでしょう…って。自分の中で、物語の大事なラストで大きくモヤってしまったので、後味よくない印象→低めな評価になってしまった。

ただ、主人公二人の演技はとても良かったです。ハンイェリは、一瞬一瞬のほんの小さな表情の変化などで総てを劇的なまでに表現してしまうので、戦慄するほど繊細な演じっぷりは本当に見事だったのと、かつては軽くてチャラい俺様プレイボーイみたいな似たようなキャラばっかりだったキムジソクが、この年になってこんなにも素敵な人物の役柄がこなせるとは…とこれからの活躍にも期待大です。

OSTはSondiaの「愛してるという言葉亅がものすごく良い!
えぬ

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