8637

大豆田とわ子と三人の元夫の8637のレビュー・感想・評価

大豆田とわ子と三人の元夫(2021年製作のドラマ)
4.3
正直、ここまでモヤモヤする最終回だとは思わなかった。語られていく未来は、変わったようで変わらない。それが普遍的で退屈とは言わない。僕だって変わらないで欲しかったし。ただ一つ変わったこと...元夫への愛情を取り戻しただけでは完結として弱いのでは、と僕は思った。望み過ぎていた。
あと、"初恋の人"を第1話の斎藤工と対比させて最終回としてある種の伏線回収をさせたかったのは分かるが、どう考えても出オチだった。

だから自分の中では総じて最高とは言えないが、地上波に流れる映像で、こんなにも知的で、詩的で、映画的な作家性でかつ大衆的なものは初めて観た。それだけで得した気分だ。
毎週秘匿が多いからこそリアルタイム鑑賞の重要性を問われる。Twitterでバレてそのミスリードで楽しむ、なんていうのも確かにアリだが、このドラマはとにかく自分の感想を第一に観ていればよかったな、と後悔している。そんなドラマだった。

何より観ていて多幸感に満ち溢れてしまう。ディテールにはツッコミたいが、とにかく一切のイライラもない(西園寺の振る舞いは、とわ子の返しで割と気にならなかった)。
誰かが誰かに一目惚れすること。別れてしまっても、気持ち悪がられてもその人のことをいつまでも肯定し続けられること。その気持ちがたまに通じ合えて、たらればな話が弾むこと。
とわ子と八作、とわ子と鹿太郎、とわ子と慎森、八作と三ツ屋、鹿太郎と美怜、慎森と翼、とわ子と小鳥遊...ここから書き漏れた人も言わずもがな、この世の全ての"ふたり"が恋の断片を見せる瞬間って、なんかいい。僕の中で唯一言語化し難い。多分恋愛経験がないからこそ寓話としての"大人"を観察する楽しみ方ができたのかもしれない。

個人的に一番の熱を感じたのは第6話だった。勿論かごめが...という事もあるが、僕自身が「自分がする恋愛とは」と偶然悩んでいた時期でもあって、鹿太郎がとわ子の家で三人の女性たちから言い寄られていた時、その言葉一つ一つが完全に自分の事かと陶酔してビビった。

そんな事もあってこのドラマは僕にとって大切な一作。坂元裕二は一人では体感しきれないだろう恋愛観を何人ものキャラクターに細胞分裂し、会話させる。誰もが「うわそれ正解じゃん...」的"らしさ"を持っている。とある一般人の一週間なんてどうでも良いのに視聴者がそれに魅入ってしまうのは、そのキャラクターのセンス。良い恋をする人には包容力がある。そしてそれを演じる俳優とのマッチングもあって初めて"魅力"となる。一緒に観ている家族と、「僕は三人の夫の中で言うと誰なんだろう」と話し合っても楽しめる。

それだけではない。主題歌の「Presence」という一曲がなければこの素晴らしさは成立しなかった。ぶっちゃけKID FRESINOとBIMしか知らなかったのだが、誰が歌っても韻を踏んでもそこには前提のビート・メロディにすら"好き"を感じて、同時にSTUTSというプロデューサーの現代音楽的な凄まじさも感じた。更に言うと、毎週違うリリックを違う誰かが歌って話を締める異色さと、ドラマで大きな分岐点を迎えた時にラッパーが"2周目"を迎えたと言う天才さも褒めるべき。誰にだよ。
8637

8637