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大豆田とわ子と三人の元夫のRickのレビュー・感想・評価

大豆田とわ子と三人の元夫(2021年製作のドラマ)
4.6
 独りでいること、友人と一緒にいること、恋人と暮らすこと、籍を入れて夫婦になること、パートナーと添い遂げること。どれにも良いところと悪いところがあって、渦中にいると悪いところが沢山見えてしまう。でも一旦そこから離れると、また良いところが見えてくる。隣の芝生は青いと言って仕舞えばそれまで。それでも、その時の自分にとっての最善を選んでゆっくり進んでいくしかない。側から見れば捨て去った関係や終わってしまったものはバツなのかもしれないけれど、それはそれで全部愛しいことに変わりない。時折捨ててしまったものを悔やみながら、自分の中の矛盾に苦笑しながら、いろんな人に出会って別れてまた出会って、ちょっとずつ支え合いながら、過去も現在も未来も一緒に背負って不可逆な道を歩む。いやはや、幸せへと続く道はなんと面倒な。でも諦めがたい。
 坂本裕二の作品を見る度に、リアリティとはなんぞやと思い悩んでしまう。キャラクターもストーリーも間違いなく現実世界でお目にかかれないような突飛で不可思議なものばかり。中村慎森や佐藤鹿太郎なんかは実際には会いたくないほど実に面倒くさい。それでも皆んなどこかキュートでチャーミングで、居てもおかしくなさそうと思わせられてしまう。勿論俳優の演技力の高さは言うまでもない。しかしそれ以前に、帰納法的な人物描写が大きなウェイトを占めているようにも思う。何が好きか、何が嫌いか、何に楽しみを見出し、何が許せないのか。誰もが無意識的にでも思ったことのある感情や経験したことのある日常の断片が少しずつ開示されていくことで、最初の予想が裏切られ、一元的な「キャラ」ではない、多層的で矛盾に満ちた「人間」が現れてくる。これが病みつきになる所以かもしれない。
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