はる

ゼム シーズン1のはるのレビュー・感想・評価

ゼム シーズン1(2021年製作のドラマ)
5.0
"地獄絵図"
レビューサイトなどでの前評判が高く、ウワサとなっていたスリラー作品が日本でも無事にAmazon Primeで配信が開始されました。
1950年代のアメリカを舞台に南東部のノースカロライナからロサンゼルスのコンプトンに引っ越してきた黒人一家が恐ろしい出来事に襲われるといった内容です。コンプトンというと治安が悪そうだったりN.W.A、ケンドリック・ラマーなどヒップホップシーンが盛んなイメージがあります。50年代は今のコンプトンのようにアフリカンアメリカンが人口の多くを占める前夜のような時期で白人による黒人への強烈な差別と迫害が蔓延っていたようです。劇中でも引っ越してきたエモリー家は隣人からありとあらゆる嫌がらせを受ける事になります。本作はそういった差別に加え、幻覚なのか幽霊なのか分からない異形なモノも一家を苦しめます。一つ目のエピソードから最終話まで一切救いがなく、胸クソ悪い最悪な描写が続きます。ホラーを見慣れていても人によっては気分が悪くなる事もあると思うので視聴には注意が必要かもしれません。常軌を逸した信じられない差別から日常に潜む些細な差別まで様々な形でエモリー家の心は削られていく訳ですが、印象的なのは人々の視線だったり、笑い声。軽蔑が多分に含まれたそれらのアクションは観ていて本当に嫌な気持ちにさせられました。最近観た『ディキンスン 〜若き女性詩人の憂鬱〜』では1800年代における黒人への差別が描かれていましたし、私が好きなドナルド・グローヴァー主演の『アトランタ』では現在の黒人に対する差別がユーモラスに描かれています。様々な時代の黒人への差別を観ていると形は変われど根幹に残る差別はまだまだ色濃いのだと痛感します。数十年数百年経っても一向に状況が良くならない理由としてレイシズムは親から子へと受け継がれてしまうというのがあると思います。本作でもティーンネイジャーどころかまだ10歳にも満たない子どもたちが黒人を差別の対象として見ているんですよ。そのまま育っていけば親と同じ立派なレイシストとなるのはある種当然の流れかもしれません。ジョーダン・ピールが『ゲット・アウト』や『Us』で描きたかったテーマを本作では素材そのまま抽出したような印象でした。だからこそかなり喰らってしまう訳です。本作を黒人や白人の人達が観たらどういう感想を抱くのだろうと観ている最中何度も考えました。我々日本人は差別に無頓着であるからこそ無意識の差別をしてしまう島国根性の人間だと思います。いま一度普段の自分から見つめ直してみようと思いました。
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