ジェイコブ

ひきこもり先生のジェイコブのレビュー・感想・評価

ひきこもり先生(2021年製作のドラマ)
4.1
信頼している人に裏切られた事が原因で、39歳から11年間引きこもっている上嶋。人とまともに関わることもできなくなり、妻や娘とも長年会っていない彼は、現在味は評判が良くないがマイペースに細々と焼き鳥屋を経営している。そんな中、不登校とイジメのゼロを目指す梅谷中学の校長榊に目をつけられ、同中学の不登校生徒のためのクラス「STEPルーム」の担任として非常勤講師を打診される。全く乗り気ではない上嶋だったが、自殺しようとした 中学の不登校生徒奈々を助けた事をきっかけに次第に「STEPルーム」に関わっていく事に……。
人気実力派俳優としての地位を盤石なものとした佐藤二朗主演のNHK学園ドラマ。学園ドラマというと、問題を抱えた生徒達が熱血教師と関わる事で変わっていき、最後は笑顔でお別れ……が王道テーマである。しかし、本作はそんな常道からは少し外れ、教師と生徒共に引きこもりであり、どちらかと言えば教師の上嶋が生徒から励まされる事の方が多い。辛いなら逃げてもいいというスタンスを取る上嶋に対し、校長の榊を中心とする学校側は世間体や自らの保身ばかりを考え、生徒が抱える問題や直面している現実を直視しようとしない。こんな時往年の学園ドラマ主人公であれば、圧力に屈せず、校長に徹底的な反抗をするのだが、上嶋は圧力に負け、さらに面と向かって物を言うこともままならない。本作はそんな上嶋と生徒達の繋がりを通して、「学校」とは何か?を視聴者に投げかけている。
印象的なシーンは、校長の圧力に屈した自分を許せず、上嶋が再び引きこもってしまった4話。そんな上嶋家に生徒達がやってきて、家の外から「学校なんて別に来なくていいんだよ!」と励まされる場面は、まさに本作の真髄とも言える。20年以上前に流行った「GTO」では、鬼塚英吉が生徒の家の外から「学校来いよ」と言っていたが、上嶋はその真逆である。時代と共に変わるのは子供達だけでなく教師もまた然りで、本作はその象徴なのかもしれない。
また、最終話でコロナ禍による一斉休校が決まり、せっかく好きになりかけていた学校に行けなくなってしまった子供達。一斉休校の前は来いと言われたにも関わらず、今度は来るなと言われ、大人の身勝手さに我慢ならなくなったステップルームの生徒達は、閉鎖された校門の前に集い、教師達に今まで言えなかった思いの丈をぶちまける。中でも奈々の言った「私達のためにも、大人が幸せになってよ!」は教育現場の抱える問題の本質を捉えている。最終話からも見て取れるように、本作の後半から子供達は自分で考えて動けるようになっている。特筆すべきは、上嶋は子供達を変えようと動いたわけではなく、ただ単に生徒一人一人の抱える問題と向き合って寄り添ったにすぎないという点だ。ここが従来の熱血教師ドラマと違う点で、本作で描かれている問題や人々は、紛れもなく等身大の現代を生きる人々なのである。一つ残念な点は、コロナ禍による教育現場の混乱や登場人物達のおかれた状況の変化など、一話かけてもっと描いてほしかったという点。
某少年Youtuberが義務教育の放棄を宣言して物議を醸し、改めて「学校」とは何か?を考えるきっかけとなった昨今。コロナ禍も相まって、学校に行かずとも同等の教育が受けられる事に注目されている中、学校というものの真価についても問われている現代に必要なドラマ。