なっこ

彼女はキレイだったのなっこのレビュー・感想・評価

彼女はキレイだった(2015年製作のドラマ)
3.2
逆シンデレラストーリー

逆シンデレラストーリーという触れ込みで、何が、“逆”なのか、ということを深く掘り下げてみたくなる良質な作品。
第1話でもう虜になって、惹かれ合うのにすれ違っていく主役ふたりにちょっとイラッともするけど、ヒロインが親友と同じ人を好きになったと分かってからの展開がとても素敵でした。

この物語には容姿に無頓着でいられた幸せな幼少期の終わりと、自我に目覚め他と比べることで自らの容姿にコンプレックスを抱いてしまってからの私たちが、陥りがちな偏った見方への問題提起が描かれている。それは、ヒロインが後に童話作家を目指すこととリンクするかのように、いくつかのおとぎ話を、本質的に取り込んでいる。醜いアヒルの子や、シンデレラ、かえるの王子さま、など。それは、固定概念に捕らわれて、容姿に惑わされ、本質を見ることをやめてしまった大人への警鐘にも思える。

何が逆か、というと。冴えない女の子が社会人デビューとかで、白鳥になる、とか、たいてい良い方に変化するのは女の子の方なのに、この物語では、健康優良児でメガネの可愛らしかった男の子がスリムでイケメンになったということ。そして、深窓の令嬢といった雰囲気の麗しい女の子は、ガサツで化粧っ気のない、少年のような女性に成長してしまった、というまるで逆転のおとぎ話の後日談から始まるようなstory。そして女性は特に麗しい容姿で得をする面が多い反面、容姿がある基準に達していなければ、もはや女性としても扱われない、という悲劇が暗に示されている。前半の就職活動で苦労したヒロインの様子やつかんだ仕事をきっちりこなそうとするあたりは、働く女性の現実が垣間見えて、頑張る彼女を心底応援したくなった。

上手な失恋の仕方

ソンジュンの恋敵シニョクにしても、親友のふりをして合わない靴に無理に自分を押し込めようとするハリにしても、自分はこの人だと思ってアプローチするのに相手が自分を見てくれないというのは、本当につらいもの。このドラマの魅力はふたりの上手な失恋の仕方を描いてくれているところ。人生においても想い想われる主役の二人になれたらいいけれど、多くの現実の恋はそうはいかない。世の中にはハッピーエンドのお話ばかりで、いざ自分が失恋となると、失恋の上手な方法は誰も教えてくれないことに愕然とすることがある。私は韓国ドラマの多くが、片想いを演じる切ない役どころの登場人物を配置してくれることに好感を抱いている。人生の脇役を生きなきゃいけない時には、ちゃんとお手本が必要。シニョクもハリも、本当に素敵な失恋の仕方を教えてくれる。恋をして誰かに惹かれたのと同じくらいの時間をかけて、ちゃんと失恋すべきなんだ、そういう熱くなった心をちゃんと冷まして、ヤケにならずに自分を成長させるきっかけにしていくところがこのふたりのほんとうに素敵なところ。たとえハッピーエンドに終わらなくても自分の人生の糧にできる恋であったと位置づけられたなら、その恋は失敗じゃない、大事な通過点になる。ハリは特に女性として成長していく姿に、本当に心からエールを送りたくなる素敵な役どころだった。

母娘のような姉妹のような親友という存在

女性同士の友情をこんなにも美しく描いた作品は、他に見たことがない。こんな風に家族以上に固い絆で結ばれた友情のことを、“チング”と呼ぶのだなと、納得。こんな親友を持つことのできたへジンとハリは互いに幸せ者だとさえ思った。

靴という比喩

素敵だけど合わない靴に無理に自分を合わせてしまったり、ハリはヘジンに靴を贈って、新たな出発を応援したり、と靴は、女性がその人らしく人生を歩いていくための大事なアイテムとして描かれている。シンデレラでは、落としていった片方のガラスの靴が彼女を見つける手がかりになったように、女性のファッションや人となりを象徴するアイテムでもある。靴が違えばガラリと洋服も替えなきゃならなくなるように。靴はそれだけ重要なアイテム。

友情で結ばれた恋の成就

主役ふたりの内面は、男女が逆転しているようにも思える。初恋にこだわって、時にはヒステリックにヘジンにやつあたりしたり、お酒にめっぽう弱くてバッタリ倒れたり、冷蔵庫に水しか入ってないかったり、意外と実際に付き合ったらこの人大変そう、っていうのがソンジュン。甘いマスクにしっかり騙されそうだけど。対して、初恋の人からの“管理部”なんて超失礼な呼び方にも、我慢して仕事で応えようとするヘジンは常に大人だ。親友の裏切りに近い行為にも理解を示して、自分から言い出すまでちゃんと待ってあげる。公平で理性がある、そして誰よりも愛情深く包容力がある。知れば知るほど、私はこのヘジンのキャラクターに魅了された。こんな風に生きられたなら、と。恋愛における男女の内面的な特徴を男女を入れ替えて描いている、それもどちらもとてもチャーミングな方向に。どんなに美しい脚を持っていても、どんなにジョークの才能があって楽しい時を過ごせる人でも、相手がそれを望んでいないなら、悲しいけれど、それは意味のないこと。幼い頃の友情という、互いに信じ合える強い結びつきが、大人になってからもふたりを結び付けていることにとてもロマンを感じた。そのことがこの物語をより美しいものにしている。友情という土台の上に愛を育んでいこうとするふたりの姿勢がとても美しいと思った。
なっこ

なっこ