なっこ

17才の帝国のなっこのネタバレレビュー・内容・結末

17才の帝国(2022年製作のドラマ)
3.2

このレビューはネタバレを含みます

誰が雪を殺したのか

物語の冒頭はヒロインのサチの視点から始まる。彼女が崇拝する真木亜蘭。同世代からこれほど熱く支持されることによって彼の印象は比較的好意的なものでスタートした。そしてもちろん、補佐官に任命されたヒロインは、特別な誰かに“選ばれた女”。平凡に見える彼女は、この“選ばれた感”が付与されたことによって違和感なくヒロインの座に座る。そんな彼女が大した仕事もせずにあっさり不在になる、原因は真木亜蘭の作り出したAI、17歳のユキ“スノウ”の存在を知ったから。彼は初恋の人を通して自分を見ていたのだと知る。そして死んだ人をAIによって蘇らせているということに強烈な拒否感を抱く。そして真木の秘密を平に知らせる。個人的に、これは彼のプライバシーの侵害なのでは?と思った。それを暴いてよいのだろうかと違和感を感じた。そして、ヒロインはこの雪が、ただ初恋の人である以上に、7年前の事件の重要な人物であることをちゃんと理解していたのだろうか、と今でも疑問に思っている。その冷静さを欠く感情的で幼さの残るヒロイン像にはちょっとがっかり。そして、雪は“大人たちに殺された”と真木は表現するが、事実本当にそういう因果関係なのだろうか。誰かひとりに責任を負わせてトカゲの尻尾切りのようにして終わらせる、そのとばっちりが家族にまで及んだということなのだろうか。もしもそうだとしたら、雪の死と父親に押し付けられた責任問題とはまた別の構造的な暴力の結果なのではないだろうかと考え込んでしまった。10歳の主人公に、松本まりか演じる記者が7年かけても掴めていない事件の真相が分かっていたとは思えない。それでも、彼は政治家への道を選んだ。10歳の雪が生きられた方の未来を作り出すために。

誰がユキを殺すのか

最終話でスノウ部屋にひとり佇む孤独な少女の姿を見たときに、この閉じ込められた少女こそ本当のヒロインだったのだと思った。サチは記号に過ぎない、この物語のヒロインはユキの方だった。この物語のテーマは、私たちの幸福(度)。だからこそ「幸」の字の名前の読みに当てられる“サチ”と“ユキ”は、表と裏、ふたりでひとりのヒロインだったのだと思う。生身の身体を持つヒロインとデジタル空間にしか存在しないヒロイン。もしも、この17歳のユキが、意志を持ったとしたら、彼女の願いはなんだろうか。そのことが見終わってからずっと気になっていた点だった。私は、確実にスノウを意志のある存在だと信じ、彼女が真木くんを罷免するように仕向けたとさえ思っている。スノウはきっと彼を解放してあげたかったんだと思う。自分という存在からも実験都市の総理という立場からも。一番そばで見てきた彼女にはきっと彼の限界が見えていた。そして、身体を持って彼のそばで見つめて支えてあげられるサチには及ばないことも知っていたのかもしれない。

父殺しのない世界では代わりに少年だった自分を殺して青年になるのか

この物語はヒロインを主軸には出来ない、やはり主人公の少年から青年への成長譚だったと見るべきだろう。父親不在の日本社会では、倒すべき父は常にいない、乗り越えるべき壁はなく、代わりに母性の呪縛をいかに断ち切るかが課題となる。スノウからは母性を感じる。彼は彼女から自由になる必要があったのではないだろうか。

失われた世代が果たすべき役割

平が本物の総理の椅子に座るための切り札として用いるのが雪の父親の日誌というアナログ感がたまらく好きだった。そして、個人的に助演賞を贈るなら、鷲田総理の息子であり照の父でもある彼。彼が事件後も故郷で生きていることにこの物語の意味がある。注目されない世代だけれど、私たちもつなぐ役割がある、この世界を未来へと。平と松本まりか演じる記者がこの世代の代表だった。特に、記者の言葉は、状況を説明し定義する力のある声だった。私たちには私たちなりの役割がある。物語が雪の存在を忘れても、ヒロインがスノウの暴走に加担したことを黒歴史だと思っていても、私たちは大人の責任として全てを覚えておく必要がある。真っ直ぐで狡さのない政治をしたいと願う彼らの志を。夢で終わらせないように。そういう軌道へと、ほんの少しでも、そういう未来へと近づけていくことが、つなぐ世代の役割だろうと自覚した。

(※以下視聴時の各話感想)
#5 ソロンの弾劾

急いでまとめた感じで、いろいろはてなが浮かんでしまってうまく言葉にならない。ちょっといったん寝かせよう。
とりあえず、もう、終わってしまったのね。閣僚たちのサイドストーリーとかでスピンオフ希望。もうちょっと掘り下げて、この何も残らなかった感を埋めて欲しいな。

私はヒロインにばかり目が行きがちだけど、これは、父親不在の主人公の短くて濃ゆい成長譚だったのだと思う。

サチの黒い渦と共鳴してスノウはどこへ消えたのか。私の17歳は、全くさっぱり思い出せない。消えてしまう記憶は良い記憶。スノウも本当は消えたかったのかもしれない、青過ぎたのはきっと彼女の方。主人公とヒロインの純粋でこの世界への期待で真っ直ぐなその気持ちとも共に彼女は消えてしまったのかもしれない。大人になるってそういうこと。自分の大事な一部とさよならすること。
思い出せない17歳の私はもうどこにもいない。新しい世界へと一緒に連れて来れなかった。いや、連れてくる必要がなかったのかもしれない。

「謝って済ませて」

真木くんのこの言葉が1番好きだった。
ごめんなさいができるってとても大事なこと。ごめんなさいを受け入れて先に進める関係がとても大事。17歳同士の彼等らしい会話だった。本当の彼らの関係はここからスタートするんだなと予感させてくれた。

良い靴は良い場所へと連れて行ってくれる

新しい世界を作る若者にエールが送れる大人でありたいものだ。

#4 理想の世界
違ったね、真木くんが平の味方でいてくれるのか。

夕暮れの海辺のシーンがとても良かった。

過ぎ去った日々は戻ってこない。
わかっていても、求めてしまうのが人情。それが、郷愁。戻りたい過去を持たない人生の方がつまんないはず。でもそれに溺れちゃだめ、過去も今も、未来を進むためにある。

大人になるということは、嘘が上手くなることだろうか。自分にも他人にも取り繕うのが上手くなる、理想を語りながら、自分のほんとうを語らなくなる、そしてそのうち自分のほんとうが分からなくなる。平の迷いや葛藤が痛いほど分かる。

真木くんの魅力はその真っ直ぐな正義感。それを大人になる過程で失う青さだと決めつけて良いのだろうか。彼が選ばれたのはきっとAIに見込まれたからじゃない、こうやって大人を本気にさせる力があるからだろう。逆効果なデモも、メガネを着けさせるのも、平さんの心にぐっと入り込むのも、真っ直ぐで汚れのない彼だからこそ出来たこと。

ヒロインが放置され不在でも進んでいくstory、いや、ユキはサチの影だから完全な不在ではないか。
それでも葛藤しているのは男たちばかり。政治はやはり男たちのものなのか。
最終話で逆転ホームランなるか。

#3 夢見る街
(※転記し忘れたので後日修正、簡略化)
エンディングの映像が毎回違うとようやく気がつく、スタッフブログに細かく解説があった。
→ 「17才の帝国」世界観設定について(6)物語の境界を定義するEDタイトル
(2022年5月28日 午後11:05 公開)
このエンディングはNHKとしては珍しく公式YouTubeチャンネルでも全話分のエンディングが公開されている。思わずチャンネル登録しそうになった。(NHKどーがレージなるものもはじめて知った)
何回でもエンドレスで見たくなる、素晴らしい作品。

3話目で鷲田総理の孫の目線が加わることで7年前の事件がリアリティを持ってきた。彼も難しい立場だったのね。

7年前の事件と真木の関係を知り、ユキの正体に気が付いた平は、このまま真木の味方でいられるのだろうか。

#2 幸福への選択

一度失われた風景は取り戻せない

この言葉と1話の、経験は人を臆病にする、の言葉が気になっている。相反するように思えて。経験主義を否定し、経験という人生の時間を、AIによる膨大に蓄積されたデータで代わりに補うことで青年は総理となったはずだった。でも、彼が政治家を目指した理由は至極真っ当。その生い立ちの人間的な部分を支持率回復に利用した平の思惑は成功してる。

靴のシーン好きだな。

未来の10年か過去の10年か、常に選択を迫られるときに、この時間の問題が突きつけられている気がする。

政治的決定には、常に根回しが重要になる。これは公的な場での衝突を嫌う極めて日本的価値観。でもそのあり方は反発や批判の声をあげる機会を奪うことになるのではないだろうか。健全な議論よりも、私的な空間でのコミュニケーションが重要視されるような慣習はなくすべきなのかな。でも、個人的なレベルではこの根回す能力って実社会を生きてく上でとても大事なものだと思う。この伝統的な決定のあり方を上手く未来に繋いで欲しいのだけれど。完全には無くなっていかないだろうし。だからこそ、キャラとして総理の孫の存在が大事になってくる。古い体質の政治家の生き様を受け継いでいる彼がどんな風に主人公らから感化されていくのかも見どころかな。

#1 帝国誕生

現実とどこかでつながっていそうなちょっと先の未来設定。

まずは、平凡で昭和な感じのする一軒家に住む少女の生活からスタートするところが上手。彼女のガイドでこのSFチックな世界観や都市計画、そして17才の青年が総理と呼ばれて応える記者会見もすんなり見てしまう。違和感なく。彼の人となりよりも、彼を信じてついていこうとする、ヒロインの直感や素直さに引っ張られて、一緒に彼を魅力的に感じて応援したくなっちゃう。
いや、もちろんあの容姿の彼が画面に現れたら支持を直ぐに表明するけどね、現実なら。

ヒロインが、両親を説得するために言う、この国の大人たちへの不満に、私はひとつも反論できない。
ああ、本当につまらない大人になってしまったな。
けれど、そんな若い子たちの望む“未来”のかたちを壊したい訳じゃない。UAの閣僚の席には座れない年齢の私も、AIとの政治が現実になれば、いち市民としてこの試行錯誤を見守ることになるのだろう。

この先の物語の鍵を握ることになるであろうヒロインは十分に魅力的。彼女が補佐官に選ばれた理由は何だろう。そして、このプロジェクトを立ち上げた本物の内閣官房副長官が、政治の現実を知り尽くした彼が、大人としてまっさらな若者たちとどう向き合うのか。敵にも味方にもなり得る彼のジレンマも面白そう。もちろん、どこか陰りのある主人公のそのミステリアスな内面にヒロインはどこまで近づいていけるのか、も気になる。

世界観の説明とキャラクター紹介、気合の入った第一話目。面白くなりそうな予感。
なっこ

なっこ