SHIDOU

I”sのSHIDOUのレビュー・感想・評価

I”s(2018年製作のドラマ)
5.0
こんなに完璧なマンガの実写化は過去に見たことがない。

13話かけて、原作を全てやりきる。
これ、省略したエピソードってあったか?と思い返すだけでは出てこないほど、原作のエピソードを「そのまま」描いている。

ポケベルやPHS…まだスマホのない時代。もはや通話もわずらわしく、LINEなどで連絡することの方が多い2019年時点から見ると、煩わしいと思うかもしれない。だがこれが、桂正和の描いてきた恋愛作品では重要なファクターである。過去作「電影少女」でも、留守番電話を用いた切ないシーンを抉るような描き方をしてきた。製作陣がそうした原作の魅力を理解していたからこそ、そのままを目指したのだと思うと感服する。

そして何より、演者たちの原作再現度の高さ。外見、立ち振る舞い、全てがイメージ通り。みな演技が上手く、現実に引き戻されるようなことはない。

象徴的なのはヒロイン、伊織を演じる白石聖だ。

いわゆる優等生、王道すぎる王道ヒロイン。ここに説得力がなければ、物語の軸がブレかねない。しかし彼女は見た目だけでなく、演技も含め完全に原作から抜け出てきたような存在感を放っていた。

そして、外見としては一番原作からかけ離れているのが主人公、一貴を演じる岡山天音。だが、違和感を覚えるのはほんのわずかで、物語が進むにつれ、優柔不断でバカで、だけど本質はまっすぐないいヤツ、という一貴そのものにしか見えなくなる。

その他、一貴の一番の理解者であり悪友であり親友の寺谷を演じる伊島空や、一貴に惚れ込み彼を追い回す小悪魔、泉を演じる萩原みのりらは、もはや原作を越えたリアリティを獲得していた。

もう一人のヒロイン、いつきを演じる柴田杏花については、多少原作から味付けを変えていながらも、イメージを崩さない好演。

そのほかサブキャラや端役に至るまで、誰一人として、ああこれはキャスティングミスだな…とか、演技がやばいよ…と思うような俳優がいなかった。日本の映像作品では、珍しい部類だと思う。しっかりと選ばれたんだなと感心する。

映像化に当たって、そのままやればいいというわけではないとは思う。ただ、改悪としか思えないような変更を加えてせっかくの原作をコケにしてしまうケースも少なくない。そうした意味で、今作は表面だけでなく中身も含め「そのまま」やりきることで質の高い原作の空気を映像に持ち込むことに成功した好例となった。

やきもきしたり、腹が立ったり、もどかしさに悶え苦しんだり、可愛らしさにドギマギしたり、胸が苦しくなったり、満ち足りた気分になったり、絶望したり、澄みきった心持ちになったり、穏やかな気持ちになったり…一貴の心の動きを追体験するかのような映像体験でした。ラスト近辺は涙を流さずにはいられない…。

NETFLIXで配信中なので、ぜひ見てみてほしい一作。これを傑作と言います。
SHIDOU

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