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ウ・ヨンウ弁護士は天才肌のmのレビュー・感想・評価

ウ・ヨンウ弁護士は天才肌(2022年製作のドラマ)
5.0
これはすっごい良かったな。最後まで見終わって、登場人物達とお別れする寂しさを久しぶりに味わった。

『自閉スペクトラム症の天才弁護士』という下手に扱うと目を覆うような大事故になる題材を、ファンタジックで甘い味付けをしながら極めてシビアに現実的に描くという圧倒的なバランス感覚の良さでやり抜いた素晴らしい作品。韓国ドラマ界の脚本・演出・演技の実力&志の高さ、そして誠実さに慄いた。撮影・照明も見事にハイクオリティ。これは凄い作品だよ。人間観が豊かなのも本当に良かったな。

自閉スペクトラム症の天才弁護士という難役をこなした主演パク・ウンビンの演技力とバランス感覚の素晴らしさは圧巻で、キワキワのキワを攻めていく芝居が凄い。あともうちょっとやり過ぎたら媚びや誇張になる所をギリギリでならない。ギリギリで『キャラ』にならず『人間』になっている。
愛すべき脇役達を演じた他の俳優陣も皆良かった、皆好きになった。カン・テオまじイケメン


ある人物を悪役にしない為に、最後の2話で別の脇役が『仕事はできそうだけど当たりがキツくてガサツで理解の無い嫌な上司』から『当たりがキツくてガサツで理解の無い上に仕事がポンコツすぎる最悪上司』へとキャラ変されてこれは流石にちょっとやり過ぎでは??と思わざるを得ないポンコツっぷりの露骨さが唯一の不満点かな。あと不満とまでは言わないけど、最終回のクライマックスが法廷物としては少し弱いのはちょっとだけ惜しい。



ここから先は各話毎の話。ネタバレはしないけど未見の方で先の展開や事件を知りたくない方はここから先は読まない方がいいかもです。

1話。
これだけで既にかなりの充実感。
観客と上司が同時に主人公の弁護士としての能力の高さに気付くあのシーンで息を呑み(法律物としても着眼点が見事)、その後の回転ドアのシーンの美しさに見惚れた。素晴らしい。
脚本・演出もクオリティが高くて誠実。撮影も良い。そして恋のお相手イ・ジュノ役のカン・テオがイケメンすぎる

2話。
結婚式で起きた思わぬ事件を発端に、家父長制とある愛との闘いを描いて極めて現代的でエモーショナルな物語が立ち上がってくる。ラスト、出ていく2人の美しい姿に作り手はエールと希望を込めている(これ「おろかもの」じゃね?と思ったけどみんな知らないか)。素晴らしかった。
ただ下痢ネタはちょっとクレイジーすぎでは。演じる人の為にも少し違うネタにしてあげようよ・・・


3話。
主人公が自分よりも重い症状の自閉スペクトラム症の被告人を弁護する事になる、という序盤の回にして一気に重い所に切り込む回。たぶん普通のドラマなら絶対にやらない回で、序盤ですぐにここに踏み込むのは本当に凄い。
主人公の自閉症の症状が可愛らしさと優秀さを症状と結び付けるものになっているのではという危険性にすぐに先手を打つ脚本家、優秀。『自閉症の子は大抵うちみたいでしょ?』という台詞が重い。

更に凄まじい事に、障がい者にまつわる優生思想にまで切り込む。担当事件のネット記事に書き込まれる残酷で醜悪なコメントを目にした主人公が傷付く姿をしっかりと描く。ナチスの蛮行にまで言及するこのドラマの作り手は過激さに頼ることなく、極めて本当の意味で『攻めている』。


4話。
三兄弟の諍いを通じて描く主人公の再生と家父長制の解毒。
一度も誰も何も言わずに意図や感情を伝える脚本・演出の巧さ。
親友グラミの神キャラ化が止まらない


5話。
真実と正義、腹黒策士クォン弁護士。
苦い回ながら、主人公が同期で友達のチェ弁護士へ向ける言葉で泣いた。唐突に豊かなシーンをぶっ込んでこないでください泣きます
チェさんもほんと良いやつなのよ・・・

6話。
脱北者差別とDV問題。重い社会問題にも相変わらず臆せず斬り込んでいくドラマである。

7・8話。
前後編による田舎町の大都市向け道路による分断と、ウヨンウの母親の伏線の回収。最終回まで引っ張るかと思った母親の話を早くもある程度終わらせてきた事に驚いた(とはいえこの話は最終章で活かされてくる)。
イ・ジュノ・・

9話。
学歴社会の子供達を解放しようとする子供解放軍となった男の物語。韓国の社会問題に一石を投じる、この社会性が今作の良さ(後に日本のドラマがちょっとこれパクりましたね)。
「新感染半島」の名キャラ・ソ大尉こと(てか「D.P.」の人と言った方がいいね)ク・ギョファンが良い爪痕を残していきます。
二人の恋にも大きな進展が・・ラブコメとしても楽しいのが今作の魅力。


10話
二人の恋が進展した次の回で健常者と知的障がい者との恋愛と性的暴行との境界線を問う事件をぶつけてくるのがこのウヨンウ製作陣。障がいをラブストーリーの為の2人を隔てる道具にしたりしない、その誠実さが素晴らしい。
激重と激甘が同時に来て頭が処理できません


11話
激甘シーンで幕を閉じた前回の後にくるのは、宝くじ、賭博を巡る回。ゆるい事件かと思ったら衝撃的な展開&ショットがやってくる。黒沢清かと思ったぜ


12話
女性差別問題と弁護士の正義について。女性達の連帯と社会の問題点を描く見事なフェミニズムの回であり、尚且つ終盤で見られるように男性側の苦しみも描いているのが素晴らしい。
デモ隊の見え方の印象が最初と最後で明確に変わるように演出する、この視座の豊かさ(日本の作り手には無いです)。
人権派弁護士の人物造形が良くて、彼女達が迎える最後のシーンの美しさに涙が出た。

13・14話は済州島編前後編。
裁判相手の描き方の思慮深さ、主人公への辛い言葉。
ヒール堕ちするかと思われたクォンが一気に可愛くなる。そして自分BLINKなんでBLACKPINKギャグは嬉しいです。BLACKPINKは聖人です

15・16話
ここから一気に最終章、色々一気に終わらせる為に事件の人間関係が狭くなり脚本でちょっと無理した感じもあるものの、滅茶苦茶綺麗に1話と繋がって大団円。綺麗
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