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FARGO/ファーゴのGreenTのレビュー・感想・評価

FARGO/ファーゴ(2014年製作のドラマ)
5.0
これすごい!コーエン・ブラザーズの映画『ファーゴ』と『ノー・カントリー』をいいとこ取りしてしかも2で割ったんじゃなくて2をかけたくらい面白い!!

なんと言っても素晴らしいのがビリー・ボブ・ソーントンの演じる悪役ですよね。タートルネックに、大きな毛皮の襟が付いたコートを着ていて、『ファーゴ』でスティーブ・ブシェミが演じた小悪党を彷彿とさせるカッコなのですが、変な髪型と邪悪な性格は、『ノー・カントリー』のアントン・シガーを思わせる。

ビリー・ボブ・ソーントンって、色んな映画出てるんですけど印象薄くて、アンジェリーナ・ジョリーと結婚していたってことくらいしか思い浮かばない人なので、こんな演技できるとは知りませんでした。なかなかいい男で、笑顔も優しいんだけど、そこはかとない冷酷さが伺える、ゾ〜っとするキャラ。

このシリーズはノア・ホーリーって言う人がクリエイターで、エグゼクティヴ・プロデューサーであるコーエン・ブラザーズは制作には一切口出ししていないのですが、それはノア・ホーリーの作品のクオリティが高いので、なにもいうことがないかららしく、本当にコーエン・ブラザーズの作品の根底にあるものを良く理解していて、またそれをさらに引き上げていると思いました。

私はコーエン・ブラザーズの悪役って「究極の悪」の具現化なんじゃないかと思うんですよね。でその裏には、コーエン・ブラザーズがユダヤ人だってことが大きな影響を与えていると思うんです。

ユダヤ人って、迫害されてきた歴史があるじゃないですか?大虐殺されたり、「人間って、こんな残酷になれるんだ」っていうのを目の当たりにしてきた人たちだと思うんですよね。

だけど、ユダヤ人の神様のヤハヴェは、「全能の神」と言われるほどの絶対神。だけどその神を崇めるユダヤ人を救ってくれるわけでもなく、ユダヤ人をいじめる人たちに天罰が下るわけでもない。神はいるのか?悪とはなんなんだ?というのは、ユダヤ人が常に自問自答しているテーマなんじゃないかと思うんですよね。

アントン・シガーは、コイントスで自分と関わった人たちの運命を決めていたけど、こちらの悪役、ローン・マルボは、「イエスかノーか?」と訊くんですよね。

例えば、田舎町の警官が、マルボをスピード違反で止める。免許書提示を要求するとマルボは、冷たい視線で警官を観て、「免許書は見せない。おれは窓を閉めて、そのまま走り去る。踏み込んだら後戻りできない道があるんだよ。娘がいるんだろ?後何年かしたら、ああ、あのときあの道に踏み込まないで良かったと、生きてて良かったと思う日が来るよ。それでもこの道を選ぶのか?イエスかノーか?」と訊くんですね。

このシーンめっちゃ怖くて、警官だって相手が筋金入りの極悪人だってわかったら、怖じ気づいてしまうだろうなあ〜と思う。で、この警官はマルボをそのまま行かせてしまうんだけど、後で自分は臆病者だったと後悔する。

つまり、災いがふりかかるのは悪いことをしたからではなくて、「悪と対峙することを選ぶのか、どうか」ってことなんじゃないか、とこの悪役は示唆しているんじゃないかと思う。

レスター・ナイガードというキャラは「田舎のおじさん」キャラで、『ファーゴ』のジェリーを彷彿とさせるのですが、この人は「意気地なしキャラ」なんですね。高校生のときにいじめを受けていて、中年になった今でもビクビクしながら小さくなって生きている。しかしこういう「自分のために立ち上がって戦わない人」こそ悪に魅入られるんだなあと思った。最初こそ気の毒に思うんだけど、こういう小悪党の方がマルボより全然たちが悪い感じがする。

レスター・ナイガードを演じているのが、『ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!』でも似たような役を演じているイギリス人俳優、マーティン・フリーマンなんですけど、すごいハマってる!こういう役できるのウィリアム・H・メイシーしかいないよ!って思ってたけど、次から次へといろんな俳優さんが出てくるものですなあ。

そして映画『ファーゴ』の目玉だった女性保安官のマージ。こちらのシリーズではモリーという名前になっていますが、私はこのTVシリーズは「マージのオリジン・ストーリーだ!」と思いました。

マージは警察署長だったけど、モリーはまだ若くてヒラの警察官。だけどシリーズが進んでいくに従って、警察官として成長して、どんどんマージみたくなっていく。

コーエン兄弟って、「女性は男性より強い」って思っているんじゃないかと思う。先程言及した田舎の警察官のガス、モリーの上司で警察署長のビリー、モリーのお父さんで元警官のルーは、3人で『ノー・カントリー』でトミー・リー・ジョーンズが演じる保安官と同等のキャラだと思う。とても心優しいんだけど、世の中にはびこる悪の力の大きさにビビってしまっていている。

この男たちは、悪に対峙することで自分たちの良い部分、イノセントな部分を失うのが怖くて臆病になっている、つまり自分たちも残酷にならなければ邪悪なものには勝てない、失うものが多すぎると思っているんだけど、マージやモリーは、悪がはびこる世の中で勇敢に戦いながら、母性本能や思いやりを失うこともない、善も悪も許容しながら生きていく強さを思っている。

また、女性警察官として男性社会で働くモリーが、自分の方が正しいとわかっていても、男性たちの臆病さに足を引っ張られて正しいことができなかったりするところも描かれていて、私も会社でそういう思いをすることが多いので共感させられた。

あと、映画『ファーゴ』で埋められた$1ミリオンを掘り起こす信心深い男の話も面白くて、これもユダヤ人の宗教観なんだろうな〜と思って見るとなんだか納得させられる。

他のゲストスターも面白くて、映画『ファーゴ』の金髪の無口な犯罪者を彷彿とさせるキャラが、無口どころか本当に喋れない人で、手話を使うんだけど、手話がカッコいいというか、怖い!手話で怖いキャラを演じるってすげーなと思ったんだけど、この役者さん、本当に聾唖者で、インタビューでも手話で答えていた。障害のある人をキャラにすると差別だなんだって言われそうなものなのに、カッコいいキャラに仕立て上げるのがすごい!

他にも『アス』や『ゲット・アウト』の監督で有名になったジョーダン・ピールが、漫才時代の相棒キーガン・マイケル・キーとFBI の役で出ていたり、『リストラマン』のスティーブン・ルートもちょこっと出てたり、何気にオールスター!!

最初第一話がなかなかハマらなかったけど、最後の方なんてもう手に汗握る面白さだった。『マインドハンター』以来のすごいTVシリーズ!!