August

リップスティックのAugustのレビュー・感想・評価

リップスティック(1999年製作のドラマ)
5.0
自分にとって間違いなく野島伸司の作品で一番好きな作品。
特筆すべきは1話冒頭部分の三上博史モノローグで既にこれから始まる壮大なストーリーの結末を示唆しているところ。映画館で見る長編映画のような始まりかたも好き。全話を通してモノローグに心をくすぐられる。三上博史の優しい声と野島伸司の紡ぐ言葉たちが絶妙にマッチしていて、ストーリー全体の奥行きをさらにぐっと深めている。
広末涼子の透明感もさることながら三上博史の演技は本当に素晴らしいと感じる。特に有明が藍の純粋で、真剣な愛によって心を剥き出しにされていく様の演技が凄まじく良い。最終回あたりでは全く新しい人物かと思うほどに純粋無垢で無邪気な子供のような有明になっていた。見事に演じ分ける様に思わず魅入ってしまった。
最初互いの心について交わすのは皆が寝静まる夜であったが、物語後半、有明は藍への感情に心が抑えきれず発露するシーンが多くなり、観る側である自身も何度も号泣してしまった。また、後半画家として一心不乱に藍を描く狂気じみた作画の感じも素晴らしかった。
後半はお互いの心をマグマのように溶かし合う濃密な情景が多いが、前半の随所に散りばめられた初恋のように胸がきゅっとなる場面もとても好き。
全体を通して美しいライティング、鳥のさえずりが響き渡る声、作中に流れる音楽もどれも素晴らしく、演者の心の機微を繊細に映し出すような迫るカメラワークもよい。
作中に「奇跡」という言葉があったが、あの時キャストやスタッフ全員がパズルのようには綺麗にはまったからこそ出来た「奇跡」の作品ではないかと思う。
あのときのあのまま、美しい瓶につめて時々取り出して見たくなる宝石のような物語。あーすてき。また見よう。
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