【ドロドロしていて とっても嫌なハナシ】
(2018年・日本・118分・NHKのドラマ)
原作:横溝正史『悪魔が来りて笛を吹く』
脚本:喜安浩平
演出:吉田照幸
つい先日、NHK BSプレミアムで2016年に放送された『獄門島』を観たが、金田一を演じたのは長谷川博己だった。長谷川博己の金田一は、一言で言えば感情的で、更に言えば真犯人をショック死させるくらいトンデモナイ人物だった。(言い過ぎだろうか?)
本作では、金田一役は吉岡秀隆にバトンタッチされていた。吉岡版金田一は、(次のエピソードである『八つ墓村』を先に観てしまったので)どういう金田一を演じるのかは知っていた。石坂浩二や古谷一行とも違うけれど、犯人を責めたり罵倒する金田一でないことは確かだ。
今回の事件の舞台は昭和22年で、金田一の元を訪れたのは椿英輔(元子爵)の娘・美禰子(志田未来)だった。
美禰子の説明によると、この年の1月に起きた宝石店「天銀堂事件」の犯人として父・英輔(益岡徹)が疑われ、モンタージュ写真が新聞に載ったことから父は失踪してしまった。そして、4月に遺体が発見され、自殺したものとみなされたのだった。父は美禰子宛てに遺書を残しており、其処には「父はこれ以上の屈辱、不名誉に耐えていくことは出来ないのだ。由緒ある椿の家名も、これが暴露されると、泥沼のなかへ落ちてしまう。ああ、悪魔が来りて笛を吹く。」と認められていた。
この遺書の文言の解釈が鍵となるのであるが、「屈辱、不名誉」「悪魔」が何を指しているのかが分かるのは、次々と殺人が起きた後なのだ。
金田一シリーズの事件と言えば、歴史ある土地や旧家などに纏わる因縁・因習などがドロドロと渦巻いているのは承知の上なのだが、今回ほどおぞましいと感じたことはなかったと思う。
このNHKプレミアムの描写が、NHKらしからぬ攻めた姿勢のせいなのか、原作そのものがそうであるのかは分からないけれど、気分のよいものではなかった。
劇中、「砂占い」「悪魔の紋章」「風神・雷神像」、英輔自らが作曲したフルート曲「悪魔が来りて笛を吹く」などが、禍々しい雰囲気づくりに一役買っていた。このフルート曲は、最初はレコードで流れ、ラストでは登場人物によって実際に演奏される。その時の金田一の驚愕の表情が印象的だった。そして、もっと早くにこの曲に秘められた事実に気づいていれば…と、金田一は後悔するのだ。この曲の演奏には、右手の中指と薬指を使わなくても演奏出来るように工夫して作曲されていたのだ。レコードを聴いているだけでは気づけない事だった。