あまね

探偵が早すぎるのあまねのネタバレレビュー・内容・結末

探偵が早すぎる(2018年製作のドラマ)
4.6

このレビューはネタバレを含みます

「探偵が早すぎる」 いったい何が「早いの⁈」と思ったら、早すぎて事件を未然に防いでしまうというモノ! 防御率100%!

突如、五兆円の遺産を相続する権利を得た女子大生の一華と、彼女を殺して遺産を横取りしようとする大陀羅一族。
極悪非道な一族から一華を守るために雇われたのは、防御率100%の探偵・千曲川だった。
遺産を狙って次々と襲い来る資格を、「早すぎる」探偵千曲川が迎え撃つ。
どんなトリックも「トリック返し――!」の決め台詞と共に犯人に叩き返すその姿は、痛快だが――?

奇人、変人、とにかく奇天烈で、アクが強すぎて個性大爆発の探偵・千曲川光。
3話くらいまでは圧倒的コメディで、これはもうお笑い路線まっしぐらなのだろうと思いながら見ていた。
ヒロインも顔芸、絶叫、何でもあり。変人探偵との掛け合いも見事だし、母親代わりの同居人の橋田も、個性がぶっ飛びすぎている。
「ぽっと出の遺産相続人の娘」と「悪の一族」の戦い。命を狙う、狙われるはよくある王道な物語で、これをぶっ飛んだコメディにして最終話まで引っ張っていくのだろうと思ったら、数話で興味が尽きかけた。

……が! で、ある。

中盤から俄然面白くなってくる。
変人は変人だし、ぶっ飛んでるし、もはや理解できないセンスの塊なんだけど、物語が動いていくのだ。
ネタ ⇒ ふんわり青春 ⇒ 不穏にほんのりサイコホラー ときて、最後の最後に泣かせてくれる。
くだらなさに呆れ果てたその次の回で、胸糞悪さに眉を顰め、シナリオの冷酷さに胸が痛くなる。かと思いきや、強く逞しいヒロインに勇気をもらい――そして気が付くと、単なるコメディ野郎だった千曲川の表と裏の顔がチラ見えしてきて、修羅場を潜った探偵らしい冷酷な面、いやいややっぱり単なる変なヤツだろうという面、不意にそうした仮面がはずれた素顔……そんなものが見えてきて、ぐあああああああこれはずるいーーーーーーーーとちゃぶ台に突っ伏した。

千曲川の決め台詞である「神のものは神に、カエサルのものはカエサルに――トリック返し」だが、物語序盤は単なる痛い台詞として扱われ、聞いた誰もが首を傾げるコメディ要素。
そして、最後までその本筋は変わらない。言ってる本人は何一つ変わっていない。いつも同じようにトリックを暴き、そのトリックを犯人へと突き返す。
でも、物語が進んで状況が刻々と変化するのに「変わらない」このスタンスが、後半に進むにつれてどんどんエグくなっていくのだ。
1~2話では半笑いしながら見ていたこの台詞、最終話では鉛を飲み込むような気持ちで見ることになる。まさか……こんなことになるなんて。

よく考えれば、当たり前なのだ。
「トリックを返す」。押されたら押す、引かれたら引く。
ならば、刺されたら? 頭の上にシャンデリア落とそうとされたら? 爆死させられそうになったら?
序盤の面白おかしい部分から、後半の暗殺手段が過激になっていくなかでも、千曲川のスタンスは変わらない。
「殺さない」というポリシーを守りつつ、同じように笑い、同じように暴きながら、「トリック返し」を行っていく。
その変わらなさにゾッとする。
だって、確かに殺さないけれど、傷つけないわけではないから。
むしろ、「ギリギリ殺さない」っていうだけ。
でも、本人はずっとお調子者。楽しそう。
狂気とコメディがギリギリで拮抗を保っているこの感じ――ぞくぞくする。

この一連の流れを作者が見事に編み上げたというのがとても伝わってきて、もう最高に好きで、やられたと鳥肌が立った。
千曲川光、ホントにすごいキャラクターだ。

そしてこのキャラクターを演じている滝藤賢一さんの演技が、これまたもう凄まじい。すごい。絶妙。
ぶっ飛んだ変人をお笑いよろしく演じたかと思えば、それが狂気に転じるギリギリの表情をしてみせる。
かと思えば、一瞬の真顔に本心を垣間見せてくるから、表情から目が離せない。
激昂した次の瞬間に、残酷なほど楽しそうにトリック返しをする探偵が、意外なところで見せる優し気な顔、真剣な顔……そんなものに、変人なのは本当だけれど、色々な時を重ねてきた一筋縄ではいかない「探偵」という姿を見るのだ。
あの変人キャラにこれだけの感情と人間性と非人間性を詰め込んで画面いっぱいに生きた滝藤さん、最高でした!

結論から言えば勧善懲悪だし、悪は同情する余地もないほどに悪だったけれど、それでもハッピーエンドの結末に一抹のほろ苦さを仕込んだ終わりは間違いなく「探偵モノ」だ。
面白かった。見て良かった。素直にそう思った。