ゴトウ

コブラ会 シーズン1のゴトウのレビュー・感想・評価

コブラ会 シーズン1(2018年製作のドラマ)
5.0
めちゃくちゃ面白い。『ベストキッド』の正当な続編をこのタイミングで作ろうという発想はどこから出てきたんだろう。「空手を学んだ少年がいじめっ子をぶっ飛ばして勝つ」という物語が取りこぼしてきたものを全部回収しに行くような作りに寸分の無駄もない。しかも『ベストキッド』の反省会や補足にとどまらない面白さもバッチリ備えてる。観た人がみんな絶賛してたのにも納得。

先生と弟子の物語という根幹はそのまま、先生の成長も描かれる。完成された聖人のように描かれていた印象が強いミヤギさんや「超悪いやつ」のキャラクター性が強めのクリーズは、あくまでダニエルの物語としてまとめるために致し方なかったのかもしれない。「先生」と呼ばれる人だって不完全な人間であるということが(しばしばネガティブな事件を通して)再認識されつつあるように思われるので、弟子と共に成長していく師匠の描写には特にグッとくる。

同時に、「いま」のティーンのリアルとでも言うべき部分も丁寧に拾われていく。映画やドラマでしか観たことがないザ・「アメリカの高校」そのままのところもあるけれど、SNSのブロックで関係が断絶したりとか、インスタのストーリーを見て自分が誘われてないことに気付いたりとか、すぐ動画が出回っていじめられたりするとかは『エイスグレード』『ブックスマート』あたりでもあった描写だからきっと本当にそうなっているんだろう。ティーンのラブコメとして見てても結構楽しい。ぶん投げられてキスされたいわ。サムにぶん投げられたら普通にケガしそうだけどね。ミヤギ道とコブラ会でロミオとジュリエット的なことになるかと思ったけれど、より複雑なことになってたな。

チンピラおじさんのジョニーはもちろん、大人になったダニエルにもなかなか褒められたものではないところがある。サムとミゲルのすれ違いに加えて、大人になれないおじさん同士のケンカが軸で進むのだけれど、シーズン1だとダニエルの方が大人気ないし人の話を聞かないんだよな。ジョニーもナチュラルに人種、性差別的なことを不用意に言ったりやったりしてしまうのだけど、その度に改めていく描写があるので「なんだ、いい人じゃん」と思わされていく。それもまたミヤギ道が唱えるところの「バランス」には反しているのだが。

ダニエルも「ひどいことをされた」という嫌な思い出があればこそ頑なな態度をとるわけだけど、なぜ理不尽で不寛容な仕打ちを受けた側が寛大にならねばならないのか?という問いかけもある。入念に嫌ないじめっ子を見せられた後に、それでもなお「どんな手を使ってでも勝つ」戦い方を諌めることができようか?ジョニーが顔面を蹴り飛ばされるのを「ハッピーエンド」として消費するのは、少なくとも今は疑問に思える。強くあれ、勝者であれと要請する社会にあって、かつてのコブラ会のようなあり方(プラウドボーイズとの共鳴も指摘されてますね)が歓迎されることをどうやって否定したら良いのだろう。強くなることで自己肯定できるのかもしれないけれど、強くなるということは他者を抑圧できるということなのだろうか。ミヤギ道は自分からは打たない、というけれど、社会的に弱い立場に置かれている人はすでに「打たれている」と言えないだろうか。移民の子であり、ジョニーと父子のようにもなりつつあるコブラ会のミゲルが、ジョニーの実子でありながらミヤギ道で空手を学んだロビーをノックアウトする。「強くなった」少年が相手を倒すという原典と同じ演出が、原典で企図されていたであろう爽快感を少しも伴わない形で反復される。アツい!アツいけど苦い!師匠と弟子、父と息子についての物語から目が離せません!続きも見ますか?ハイ、先生!!!

「鍛えて強くなる」という価値観を、オタクの友達やサムの弟できちんと相対化しているのも良いね。
ゴトウ

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