むぅ

ブレイキング・バッド ファイナル・シーズンのむぅのレビュー・感想・評価

5.0
夕日が沈む海に向かって走り出し、砂に足を取られながらも叫びたい。

「ブレイキングバッド!面白い!」

"叫ぶ"に最適なシチュエーションがそれしか浮かばなかった貧困な発想力の私は、夜な夜なブレイキングバッド、暇さえあればブレイキングバッド、寝ても覚めてもブレイキングバッド、というブレイキングバッド漬けの日々を過ごし最終話を観た後「麻薬を密売し追い詰められる」と、これまた至ってシンプルな脳みそを証明するような夢を見た。


さて、どこから書いてよいものか


自分が「面白い!」とアツく語れるものしか人には勧めない、が、「面白い!」と思ったら最後その辺の勧誘よりも執拗に勧めてくる友人からのお勧め。
そして友人が"激推し"する時は、その作品に"推しキャラ"が存在することが多い。
もう互いに人生の半分以上の期間を友達として過ごしているので、聞かれなくたってわかる。

「ジェシー好きでしょ?」
「うん、むぅは?」
「ハンクとマイク」
「あー」

お互い"きゅんセンサー"が一切被らない事は重々承知である。
彼女は"ピュア" "逆境で追い詰められ苦しみつつも曲げられない芯がある" "チャーミング"といった要素にセンサーが反応するのに対し、私は"クール" "クレバー" "なんなら偏屈で気難しい"に反応するのだ。
いつもなら「本当に好み合わないね」と笑いながら話が進むところなのだが、今回は「いや、そうだよね、ジェシーいいよね」「ハンクが好きなのわかる」という会話になっていったのは、ブレイキングバッドの登場人物の掘り下げが見事だったからなのだと思う。
ゆえに、最終誰が辛い目にあってもとにかく辛いという状況になる。そしてその容赦ない脚本がまた素晴らしい。

個人的には小道具の使い方に感嘆した。あの時のあれが!!となる事にS1で気付き、以降どこも見逃せないぞという気持ちになりながら観た。
漫画でもドラマでも[いつも同じ服]や[いつも違う服]よりも、[ちゃんと服を着回しているのがわかる]作品が好きだ。
「これ見たことある!そういうことか!」となるアイテムの数々の使い方は、悲鳴をあげそうなシチュエーションなのに爽快感を与えてくれた。

私がS3が終わった時点でオンライン飲みをした。
ほぼブレイキングバッドの話をする2時間半。ネタバレ倫理観がゆるゆるな私と、キツキツの友人。逆じゃなくて良かったとつくづく思う。逆だったら言ってはいけない事実ばかり言う私にあちらがキレる事態が多発しただろう。
その作品を噛み締めて深掘りする友人と、ダーっと進んで結末が知りたい私の違いはお酒の飲み方にも現れるようで。その友人が2時間半で、ちょっと良い缶ビール(350)1本だったのに対し、私は氷結無糖(500)4本。
はて。こちらとしては時の流れが違うとしか思えない。
翌朝、空の冷蔵庫を見つめながら、玉手箱を開けた浦島太郎のような気持ちになった。

流れた時は戻せない。
どんどん堕ちてゆくウォルターが引き返すべき時はいつだったのか。
それを言ってはおしまいだとは分かっているものの、私としてはS1の1話、遅くとも2話。
それでもずっと面白いから凄い。

純度の高い"薬"を作るウォルター。何事もその純度が100%ということがいかに難しい事なのかを考えさせられる。
"誰かのため"という行動も、そこに"自分のため"が少しも入っていない事なんてあるのだろうかと思った。

面白かった。
[働く]と[自分を清潔に保つ]以外の人間としてやるべき事をボイコットして観た感がある。
むぅ

むぅ