ことは

ミスター・サンシャインのことはのネタバレレビュー・内容・結末

ミスター・サンシャイン(2018年製作のドラマ)
4.6

このレビューはネタバレを含みます

国家が動く瞬間。花火のように散る者達の情熱。すべてが美しかった。儚いというにはあまりに強くて眩しい、そんな義兵の心は受け継がれていく。国家の根底にある民の強さであり、時代を超える遺志なのだと分かった。彼らの死は決して無駄ではない。圧倒的な力に覆われても抵抗する者は必ずいる。それはそこらの一般人かもしれない。でもそのうねりが長い時を経て国を救う。花火のように散った者達。名前も残らなかったかもしれない。けれど、彼らが確かに存在した軌跡。43億円かけたドラマで一番心に残ったのは、圧巻の映像美ではなく、泥臭い民衆の熱い心だった。そして、主演のユジンとエシンを演じたイ・ビョンホンとキム・テリに惜しみない拍手を送りたい。見始める前はどうしても2人の年齢差などが気になってしまったが、見始めたらそんな邪念はすぐに消えた。そこにいたのは激動の時代の真っ只中で命懸けで互いを愛する2人の男女だった。
出会う人全ての心を捉える揺るぎない義の心を持つエシン。彼女の信念はあまりに熱く、眩しい。その輝きに焦がれた者達全てを焼き尽くすほどに。彼女のその義兵としての強さと、朝鮮一の名家の令嬢としての慎み深さ、その二面性を見事に両立させ、尚且つたった一人の男を愛する女としての一途な美しさも見せてくれたキム・テリ。彼女こそがエシンであり、彼女以外のエシンはあり得ないと思うほどの素晴らしい演じっぷりだった。
そして、朝鮮に捨てられ、米国で育ったユジン。エシンと出会うまで彼の心の本当の居場所は朝鮮にも米国にもなかったのかもしれない。そこで出会ったのがエシン。彼女の進む道を後ろから支えるのが彼の生まれてきた意味であり、そここそが彼の本当の居場所になったのだろう。そしてその生き方をそのまま体現して散っていったラストシーンはしびれるほどの格好良さと少々の切なさを感じ、号泣を禁じ得なかった。また、エシンが最後に「チェ・ユジン」と呼び掛けたのも、彼らが「米国人」や「朝鮮人」、「奴婢」や「お嬢様」といった煩わしい肩書きなどとっくに飛び越えて愛し合っていた証のような気がして胸が苦しくなるほど泣いた。
また、その他のキャラクター達も一人一人が愛おしかった。若様ことヒソンは最初はエシンと同様頼りげの無い軽薄な男だと思っていた。だが、物語が進むにつれ、彼の心の奥にある芯の強さに胸を打たれるようになった。留学を長引かせた理由が暴君だった祖父から離れるためだったことや、たまにふと見せる哀しげな笑みから大金持ちだがおごり高ぶり人徳の無い家族の元に生まれた宿命を一身に受けるヒソンの苦しみが垣間見え、切なかった。そんな彼がエシンを心から愛し、その愛故に身を引くシーンはあまりの切なさに胸が痛かった。本音を笑顔の下に隠し、裏で一人泣くヒソンの姿に私も号泣した。朝鮮一のお坊っちゃまでありながらその最期を冷たい尋問部屋で終えたキム・ヒソンは、ただの一人の男としてとても格好良かった。
エシンへのあまりに拗らせた重い愛を抱くク・ドンメ。彼はまさにコ・エシンへの愛に溺れ、その愛によって破滅していった男だった。彼との最後の別れ際にエシンが放った言葉が恨み言だったこと、そしてその言葉を死の間際に思い出し、「そんな形でもお嬢様の人生に俺がいたなら俺はそれだけで十分です」と遺して穏やかな笑顔で死んでいったこと、これらはまさにク・ドンメという不器用な男の歪んだ愛の人生を象徴していて、ク・ドンメが狂おしいほど愛おしくなった。
そして、そんなドンメを愛してしまったヤンファ。彼女こそ激動の時代に最も人生を振り回された女性と言っても良いだろう。ホテルの女主人として上流階級の人々を品良く掌の上で遊ばせているように見えて、その裏には極悪人の娘としての自覚と葛藤があった。魅惑的な笑顔で誰にも本音を悟られないように生きながら、本当は誰かにすがりたいと願う、美しいほど孤独で淋しい人のように見えた。だから最初は自分に何気なく手を差し伸べてくれたユジンが気になったのかもしれない。だが、結局は自分の強さ、弱さ、見栄、誇り全てを受け止めてくれた自分の最大の理解者であるク・ドンメに惹かれていく。その告白が死の間際、曇り空の下の波打ち際でク・ドンメに背負われながら行われるシーンは、寂しくも美しかった。
こうして主要キャラクターの感想を書いていると、このドラマでは一貫して登場人物の本音や本性をその人の最期に明らかにしていると気付いた。激動の時代の中、自分自身のアイデンティティを失いそうになりながらも、最期には確固たる自分とともに死んでいく、というのは悪役も含めて皆同じで、どんなに時代が揺れ動こうと、変わらない人の心の強さを感じた。また、悪役が次から次に移り変わっていくのも、歴史における暴君は1人が突然変異で生まれるのではなく、その時代の風潮によって生まれ続けるということを暗示しているのかもしれないと思った。
他にも、スングと陛下の関係や、義兵達の信念、ユジンとカイルの友情など、書きたいことは山ほどあるが、さすがにきりがなくなるのでやめておく。ここまでひとりひとりのキャラクターに愛着を持たせ、尚且つ史実に基づいた歴史ドラマとしての脚本も見事で、さらに圧巻の映像体験を届けてくれるミスターサンシャイン。43億という大金が投じられたのも納得の大傑作だった。1人の韓ドラファンとして、また1人の日本人として、一生胸に焼き付いて離れない素晴らしいドラマにめぐり会えた。
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