Larx0517

ハッピー・バレー シーズン1のLarx0517のレビュー・感想・評価

ハッピー・バレー シーズン1(2014年製作のドラマ)
4.3
すさまじいドラマを見てしまった。
興奮冷めやらぬ。
この言葉を体感した稀有なドラマ。
最後の最後まで息をつかせね展開。
サスペンスだけではない。
見終わった人なら同意してもらえるだろう。

e3の冒頭でのあまりの展開に、思わず停止ボタンを押して、焼きついて真っ白になった頭と心を、取り戻す時間が必要だったくらい。
さらにその後、出演時間わずか1分にも満たない名もないキャラクターの涙に、こちらが号泣してしまう。
その次の瞬間に人間社会の醜い部分をつきつけられる。
これがわずか5分以内に起こるのだ。
まさに感情のジェットコースター。
それくらい今作の底力は破格。

BBCドラマは裏切らない。
もはや何度書いたか分からない。
しかもその信頼は、今作で「決定事項」に。

BBCドラマに共通する素晴らしいと思える点が、登場人物ひとりひとりが血や肉を持った人間だと感じられる部分だ。
みんな完璧ではないし、闇や醜い、そして恥ずべき部分を抱えた人間。
ストーリーありきでコマとして動くのではなく、「このキャラクターならこう動く」でストーリーが脈打ち、躍動する。
サスペンスドラマの前に人間ドラマなのだ。
それを体現する俳優陣のレベルも高い。
言うまでもなく、見れば一目瞭然。
なかでも、サラ・ランカシャーの演技は圧倒的。
見る者の心をわしづかみにする。
彼女の代わりに、自分が泣きたいと思わせるくらい。
彼女の演技を見て、今作の監督兼脚本家のサリー・ウェインラインは彼女のために今作を書いたのも納得。

妹クレア役のシヴォーン・フィネランは、『ダウントンアビー』のオブライエン役を演じている。
さらに個人的には、BBCドラマ『戦争と平和』で寡黙で実直なアンドレイを演じたジェームズ・ノートンの、今作でのロイス役の悪役非道ぶりに少なからずショックを受けた。
(制作年では、今作が先なのだが)
しかもe6で彼が持っている本は...
『戦争と平和』

2人とも金髪に染めたせいもあるが、それぞれが全く印象が違う。
これぞ役者冥利に尽きるのだろう。

脚本と俳優、この両輪で確固たるドラマを走らせる。

さらに今作では、登場人物の多くが不安定で、どう展開するのか予想できず、まさに見ずにはいられない強力な磁場を生み出し、引力を持っている。
「そうくるか⁈」
「そうつながるか⁈」
の連続。
思わぬところで、絡まり合い、予想外の展開になだれ込む。

典型と言えば典型なのだが、罪を犯した人間が口を揃えて、悪事を犯したのは自分のせいではない、他人のせいだと言う。
言い換えれば、そういう思考だから犯罪を犯すのだろう。

個人的には、ダニエルの「激白」には、胸がしめつけられた。
子供は親が言った言葉を決して忘れない。
たとえ親が悪気がなく、言ったことさえ忘れても。
たとえ子供が、親が言った時の年齢になっても忘れない。
子供は、親が完璧だと、完璧であるべきだと思いがちだが。親も不完全な人間だと分かり、「許す」時が来る。
いみじくもキャサリンが言う通り。
「あなたも親になれば分かる」

全てが終わって、思わずにはいられない。
ライアンが「すべて」を知った時、彼はどうなるのだろうか?と。
そう思わせる作品はそうない。

もう一度言う。
このドラマは、サスペンスドラマとしても一級品だが、その前に人間ドラマとしても一級品。
そしてそういう作品に出会えることは、幸せなのだと。
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