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警部補 古畑任三郎 1stのYMのレビュー・感想・評価

警部補 古畑任三郎 1st(1994年製作のドラマ)
5.0
はじめてみたのは小学生くらいのとき。それから何度も好きな回を見直している『古畑任三郎』だが、田村正和の訃報を聞き、最初からきちんと見直すことを決意。で、やはり面白い。話もネタもわかっているから、どこで示されているかがわかれば、いかにフェアーな作品か、ということについてより深く楽しめるようになる。

Ep.1「死者からの伝言」(中森明菜) ★★★★★
ひさびさに再鑑賞。舞台劇、倒叙、無駄なシーンのなさ、(女性)犯人像、ジワジワとした追い詰め方、このときからしっかりと「古畑」スタイルが完成されていたことにあらためて気づかされる。当時、これをリアタイで見た人はなにを思ったのだろう。テレビを点けると、あの調子で古畑が「犬を呼ぶときは名前まで……」と呼びかけてくるあの可笑しさ。ファンの「三谷幸喜が今度は刑事ドラマだってよ!田村正和で!」という想像と期待の上をあの瞬間から確実に超えていただろう。次第にボロを出しはじめる、憂いげな中森明菜もまた女性犯人像として、同情というか、肩入れしてしまう良さがあり、それらに鑑みるに、『古畑』は一話目からちゃんと”古畑”として完成しており、続く回はその多彩な変奏であったといってもよいのではなかろうか。「泣いてきていいですか?」に貰い泣きしそうになったよ。

Ep.2「動く死体」(堺正章) ★★★★★
歌舞伎ネタをふんだんに取り入れた回。このころは仕掛けを今泉にちゃんと説明していたんだな(笑)。底意地の悪い古畑を楽しむ回。今泉も「焦ってました?見たかったなあ」とかぼやいているし。茶漬け食べちゃう理由も、落ちたあとのふたりも良い。
堺正章の懐中電灯のドタバタと、一杯喰わされたことがわかっての「あンのヤロー……!」の歯ぎしりは最高。そして実はありきたりなんだけど「あのとき、まっさきに貴方”……”っていいましたよね?わたしこれしか言っていないのに」が自然で好き。そしてここでも故障した自販機ネタ。
この、思いかえせば、被害者と揉めたきっかけもたいして深堀りもされず、その後もなく、ただ落ちた堺正章とふたり笑いながら舞台へ上がっていく、というエンディングがまさに古畑で、”ご遺族の無念”だとかそんなまどろっこしいもんを脇に措き、ただただ即物的に犯人と対決するだけに特化している、というのが、ほかの刑事ドラマとは一線を画するところであり、私も好きな理由なのかもしれない。

Ep.3「笑える死体」(古手川祐子) ★★★
これ、「一番目につくものが……」という割にはラストまで行ってから見返しても写っていないのが……フェアさにおいては一段どうしても下がる。それはさておき、ストッキングで煙草を吸う姿が笑っちゃう。第1話からライター持っていたから、吸うのかなと疑問だったけど、ここで解決。吸うんだ。とはいえ、こう言ってああ言って、ストッキングを置いておけば、とそこまで人は思いどおりに動くのかなぁと考え始めると、トリックとして弱いのは否めないのではないか?、とは思ってしまう。

Ep.4「殺しのファックス」(笑福亭鶴瓶) ★★★★☆
この回、小〜中学生くらいのときにめちゃくちゃハマってた(笑)。古畑「だからこちらも仕掛けを」のときの、白スーツで合成っぽくなってしまう今泉と、そのときの鶴瓶と古畑の顔芸合戦がただのコメディでいい。中高を過ごした東京タワー/芝公園が舞台であり、地元感も愛着の一因かもしれない。
時代がかったトリックでいまには通用しないかもだけど、現在進行形で事件を進める犯人とその犯人を追いつめる古畑が同時並走、という、引き伸ばされた倒叙のスタイルは新鮮。ひっかけで落とすという面白さも堺正章の懐中電灯のいやらしさと同じテイストでこれも古畑らしくて好きな回。うろたえる捜査陣の背後で一人椅子に腰掛け足を組みペーパーバックを読んでいるうしろ姿、という登場シーンもいい。ずっと何回も見てるけどやっぱり今でも好きだな……。

Ep.5「汚れた王将」(坂東八十助)★★★★★
梨園の俳優の回は当たりだと思っている私。この回もまさに。今回古畑は、駒の証拠を確認せず、逆に、こうだから駒に証拠があるはずだという推理/賭けで落とそうとしていて少し珍しい。米沢八段の主だったミスも、ジャケットを畳んでしまったくらいのもので、封じ手のトリックも偶然がなければ古畑でも気づけないという、状況証拠でしか囲めないステージで、ここまでのなかではかなり上位の強敵といっても過言ではない。あと、米沢との対戦相手が藤井聡太っぽいのは気のせいか(笑)

Ep.6「ピアノ・レッスン」(木の実ナナ)★★★
今回の仕掛けは前回の「将棋の駒」(証拠をここで見つけてしまって……アッ飛車は成れない!)とは逆の効果を持つ「ピアノの弦」(切れていると思いこんで……Cが切れていたらレクイエムなんか弾けない?!)だが、「犯人に課せられた行動の制限」が古畑の前で示され、それが糸口となる点においては同構造と言える。ちゃんと確認して「追想のレクイエム」を弾いていれば……。ところでこの遺影誰なんでしょうか……?

Ep.7「殺人リハーサル」(小林稔侍)★★★★
まず冒頭の、「もし、あなたさまは、あっぱれ侍……!」から、パーッと縦横比が変わって映画のなかから撮影所シーンへとシームレスに切り替わるのが、今回の幕開けとして完璧な説明で良い。バサッと斬り殺されるのはシリーズイチの残忍さか。過失ではなく謀殺であるとする古畑の「殺意の証明」は、月という"状況証拠"のうえになりたっており、ここまで言ったら落ちるだろうという大宮十四郎の人柄への勝負に頼っている。人柄への勝負は菅原文太、沢口靖子、ひいてはイチローへとつながっていくわけだが……。
しかしながら一筋縄ではいかぬのが今回の相手で、真剣白刃取りのような危ない橋を渡る場面もあり、揺るがぬ(一本調子ともいえる?)の小林稔侍を追いつめる緊張感は高い。
「後悔はしとらんよ」から始まる最後の自供は、Ep.1中森明菜のリフレインか。「男にはね…命に換えても、護らなければならないものがあるんだよ」のキメ台詞は愚直すぎるきらいもあるけれど……。総じてこれも何度か観ている好きな回というのを再確認。

Ep.8「殺人特急」(鹿賀丈史)★★★★☆
この回も好き。最近知ったのだが、『振り返れば奴がいる』のキャラクターだから、「振り返れば」、だったのか……。
とはいえ、クレジットカードとか、弁当の紐で外科医と見抜くところなど、細かい洞察眼を利かせるのが多く、そこがまず楽しめる回。なぜ乗務員に呼ばれたとき、中川は盗んだコートを着ていったのか……、だけは疑問なんだが、偉そうな中川と、聞かれたことをはぐらかす古畑の粘っこい応答がクセになる。二人、勝負が終わったあと笑う姿は、Ep.2堺正章のエンディングとも通じる、勝負師同士の決着らしさがある。駅について降車がはじまり、そこでエンドロール、は屈指のカッコよさ。珍しく手錠している?テーマ曲の、死体と二人きりの梶原善が、開いてしまう窓と格闘するシーンで流れているアレンジが好きなんだが……曲名なんだろう見つからない。

Ep.9「殺人公開放送」(石黒賢)★★★☆
いつも以上に爆速で解明していく古畑は、一度も現場にいかないのに解明してしまう。サングラスのタネと、じつはそこじゃないオチと、ラストの物悲しさが印象深い。でもやっぱりサングラスのネタばっかり覚えてしまい、初めてみたときから今日においても、たとえば眼鏡屋さんに行ってイエローのサングラスを掛けると、いつもこの回のことを思い出している。
コールド・リーディングの理屈、たいていの人の悩みは人間関係に起因していることを、この回から学んだ(笑)

Ep.10「矛盾だらけの死体」(小堺一機)★★★☆
いやーな古畑に翻弄される犯人、というコメディタッチな今回、裏読みのし過ぎで自爆する佐古水の第二の犯行は、「忖度」が取りざたされる昨今に見返すとまた趣深い(笑)。ケータイにワン切りくらいしておけばよかったのに……。結果的には「ご自分でどうぞ!」ですべてをフイにしてしまう残念さ加減も面白いんだが、今泉取り違えの3段オチもなかなか。イイ意味でふざけまくった三谷幸喜らしい回だと思う。

Ep.11「さよなら、DJ」(桃井かおり)★★★
なぜかこれはあまり印象に残っていない回で、今回の見直しは新鮮だった。よくファンのベスト回に入っていることは多いけれど、他の回よりは自分のなかでの評価は低い……。もちろん、今泉を走らせたり、つなぎでないところで「古畑任三郎でした」と言わせたりと、のちのお約束がくさん出てくる(そして無論「赤い洗面器の男」も)し、桃井かおりの演技の面白さもあるっていうのでわかるんだが、どうみても唐突なカセットテープが落としの説得力に欠く感は否めず。フェアーさにおいては、古手川祐子の回と似たもう一味欲しさを覚えてしまう

Ep.12「最後のあいさつ」(菅原文太)★★★★★
うらぶれたホテルの換気扇や汚い中華街の印象からくる「ブレードランナー」的雰囲気がたまらない。拳銃を持ち出す小暮警視がふと「古畑さん……まだ弾は残っとるがよう」と言い出すんじゃないかとドキドキするくらい、”やりすぎな”菅原文太を冒頭からずっと楽しむことができる。ホテルで足を投げ出して寝る姿が広能のオマージュという話は本当か?!
ホテルの一室で物語のほとんどが進んでいく舞台劇ぽさは健在。現場に行けば、排水溝に大量に捨てられた煙草の吸殻が証拠となるだろうが、それは使われず、糸口になるのは古畑が偶然差し出していたリンゴ、というのも今作では忘れられないモティーフ。落としは「Ep.7 殺人リハーサル」同様の「ここまで詰めれば小暮は落ちるだろう」という”美学”に賭けている面があり、ロマンティックは十分。
今シーズン、この回で唯一、ラストに古畑がひとこと「私達の仕事というのは裁くことではありません……」と小暮に申すシーンは、格別ではないか。「Ep.2 動く死体」のときにも書いたけれど、基本「落として逮捕するだけ」の古畑警部補が、理念を説く犯人は今シーズンで上司の小暮警視に対してだけ、というのは、フィナーレの演出として効果的であり、最初からこれをフィナーレにすることは計算ずくだったと私は思う。
ところで、「視聴者への挑戦」で遊びを入れるのは「Ep.8 殺人特急」の食堂車コーヒー、「Ep.11 さよなら、DJ」の「…古畑任三郎でした」で始まった、どんどん激化していく三谷らしいメタ的な遊びだが……それはまた、別の話。
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