長内那由多

ザ・クラウン シーズン1の長内那由多のレビュー・感想・評価

ザ・クラウン シーズン1(2016年製作のドラマ)
5.0
エリザベス女王の若き日を描く王室内幕モノで、脚本製作はこのジャンルの第一人者ピーター・モーガン。ジョン・リスゴーがチャーチルに扮するが、誰が演じても同じ芝居になる所にチャーチルという人の濃さを感じる。昨今のチャーチルブームに先駆けたのは本作か。

E8
脚本ピーター・モーガンの真骨頂。歴史的に大きなトピックスよりも、当事者でなければわからないやり取り、心情にフォーカスした時のダイナミズム。プライベートな会話シーンが続くが、本当に密室のやり取りだったのはおそらく最後の姉妹喧嘩だけでは。

『フロスト&ニクソン』のハイライトはニクソンが個人的にかけてきた電話シーンにある。『クイーン』もエリザベス女王が一人で歩いている時に鹿と遭遇する場面がそれだ。1つだけフィクションを混ぜる事で、当事者以外知る由のない心情を浮かび上がらせる。そこにこの作家の題材に対する敬意が伺える。

女王の母を演じるヴィクトリア・ハミルトンが素晴らしかった。夫ジョージ6世の死語、すっかり気落ちしてしまった彼女が養生先のスコットランドでふと自分を取り戻す。この個人と位(責任)というテーマはとりわけこの第8話の中で反復されていく。

フィリップ役のマット・スミス、初めて見た役者だが面白い個性。長身痩躯で、いつも頭をぶつけないように身を屈めているかのような立ち姿。所謂美男子とは違う、くしゃっとした顔立ち。まだ自分の立ち位置がわからない殿下をどこかフーテンっぽく演じていてチャーミングなのだ。

『ザ・クラウン』S1E9、チャーチル引退回。後に行方知れずとなる肖像画の作成を通じて、稀代の政治家の歪で高すぎるプライドが浮き彫りになる。チャーチルが画家によって己の老いを突き付けられる場面はピーター・モーガンの真骨頂だろう。連続したチャーチル映画よりも大胆な評伝になっている。

完走。
様々な角度から女王を描いてきたが、やはり最大のテーマは“私(わたくし)と王位”なのだ。兄の出奔から王位を継がざるを得なかった父を見てきただけに、エリザベスの使命感はより強い。これが後に『クイーン』でも描かれるダイアナ妃と王室の確執に繋がっていくのだろうな。
長内那由多

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